パソコンを仕事や生活で使う皆さんは、キーボードをもっと速く打ちたいと思っていませんか?
あまり知られていませんが、キーボードが打ちにくい理由は、パソコンを扱う人間の側ではなくキーボードの側にあるのです。
一般的なキーボードのアルファベットの配列は左上から右へ順にQWERTYの並びになっています。これがQWERTYの発音通りの通称クワーティーと呼ばれる標準キーボードです。この配列が定着する以前、さまざまなタイプがありましたが、その中でQWERTYは文章を打つのに最も適した配列とは決して言えるものではありませんでした。にもかかわらず標準になった理由には複数の説があります。
一つは昔、タイプライターで採用されましたが、文字を速く打ちにくい配列だったため、先端に文字が付いているアームの部分が衝突することが少なく、故障が少なかったため、という説です。またタイプライター=TYPEWRITERの文字が一番上の文字列に並んでいて、セールスマンがタイプライターのデモ販売をしやすかったという説もあります。また当時のユーザーだったモールス符号のオペレーターが利用しやすい配列にしたため、ともいわれています。
いずれにしても、一般の利用者が打ちやすいように配慮した配列ではありません。このような配列が一般化した理由は、行動経済学における「経路依存性」で説明できます。これは現在の選択が、既に関係のない過去の状況に縛られる現象です。
このように、たまたま普及した使われ方が根付いてしまった例として、ビデオテープの規格があります。ベータマックスはVHSより、若干早く市場に登場しました。明確な優劣はないにもかかわらず徐々にVHSが優勢となり、ベータは市場から撤退しました。
もっと身近な話をしましょう。ご家庭でお父さんが、以前の家計事情に縛られてお小遣いの額を増やしてもらえないのも経路依存性の影響です。どうしたら増えるのか悩んでいるお父さんはたくさんいるでしょう。もしかすると、キーボードに慣れず打ち間違いで困っている人や、ベータマックス派だった人よりも多いかもしれません。
(マーケティングコンサルタント)
(2020年12月19日号掲載)
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