60 ナッジ 望ましい行動促す仕掛け
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60 ナッジ 望ましい行動促す仕掛け

行動経済学は、本連載で紹介したように、人間が不合理な行動を行ってしまう原因やパターンを数多く発見しました。

 これらを知っておけば、人は誤った行動や選択を避けることができます。「(誤った行動・選択による)マイナスの状態が避けられ、ゼロの状態を維持する」ことが可能になるわけです。

 さらに、行動経済学で提唱する「ナッジ(Nudge)」を活用すれば、暮らしや社会生活をより良くし、「プラスの状態をつくりあげる」ことも可能です。「ナッジ」とは「人を肘で軽く突くようにして、望ましい行動を自発的に選択するように促す」という意味です。

 この比喩から感じ取れるように、何か選択を禁じたり、「売り上げに応じて報奨金を出す」といったようなインセンティブ(動機づけ)で強く働きかけたりしなくても、人々に望ましい行動を取らせるようにする仕掛けや手法が「ナッジ」です。

 これを提唱した米国の行動経済学者リチャード・セイラーらは、2017年にノーベル経済学賞を受賞しました。「ナッジ」は現実に、さまざまな場面で活用されています。

 ある米国企業の社員向けカフェテリアでは、糖分の多いメニューは取りにくくする一方、果物は取りやすい場所に置き、プレートを小さくしたことで、「少量が普通」になり、結果的に社員のカロリー摂取量が減りました。「ナッジ」を応用したカフェテリアで社員は、自ら摂取カロリーや食べる量を減らし、自制したのです。

 また米国の電力会社が顧客に電力消費量を知らせる際に、近隣家庭の消費量も合わせて知らせた結果、使用量の多かった家庭の電力消費量が減りました。自分の家の電気使用量が周りより多いと気づかせる「ナッジ」によって、自主的に節電したためです。

 「ナッジ」は、このような良い行動を自発的に起こさせることができます。この方法を多くの場面で活用すれば、社会全体をプラスの方向に導くことも可能です。「ナッジ」を含めた行動経済学には、人間や社会の未来をより良いものにする力があるといえるのです。

 暮らしの改善に役立つ行動経済学の理論を紹介してきた本連載も 60回を数え、今回で終了となります。行動経済学を学ぶことによって、皆さんの暮らしがより快適で良いものになるよう願っています。長らくご愛読いただき、ありがとうございました。

マーケティングコンサルタント(おわり)


2021年10月9日号掲載

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