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マルティネス

  • 10月11日
  • 読了時間: 2分

=1時間36分

長野ロキシー(☎︎232・3016)で10月17日(金)から公開

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(C) 2023 Lorena Padilla Banuelos

孤独死女性に恋した 60歳男性の気付き

 人生の終盤を迎えた男にできた恋人は孤独死した隣人女性だった—。「マルティネス」は、メキシコ出身の女性監督が、老いや死、孤独に直面した男性を主人公に描いた、ちょっぴりほろ苦く切ない人生ドラマだ。


 メキシコの会計事務所に勤めるマルティネス(フランシスコ・レジェス)の日常は判で押したように変わらない。口下手で社内でも近所でも人付き合いに無関心で仕事一筋、孤独に生きてきた。今の不満はアパートの隣人の部屋のテレビの音が大きいこと。だがある日突然、思いがけない変化に直面する。60歳の定年を控えたマルティネスは退職勧告され、後任でやってきた軽薄でおしゃべりなパブロに引き継ぎをするはめになる。さらに、隣人のアマリアが6カ月も前に孤独死していたことが判明。遺品の中にマルティネス宛てのプレゼントが残されていたことから、故人に興味を持ったマルティネスは廃棄されていた遺品を自室に持ち帰り、日記や手紙で彼女の人柄を知り次第に引かれてゆく。


 なぜ彼が生真面目で融通の利かない偏屈な頑固オヤジになったのか説明はない。彼も後任のパブロも同じチリ人で、異国で生きることの大変さを想像するだけだ。


 マルティネスの行為は一歩間違うと変態にとられかねないが、アマリアの存在を通して、無骨さゆえにこじれてしまった人生が徐々にほぐれていく。その姿につい応援したくなるから不思議だ。


 他者に無関心で、無機質だったマルティネスの人生が、空想上の恋人に導かれるように次第に彩られてゆく。老いや死、孤独に直面した時、人はどう生きればよいのか。心の豊かさとは何か、60歳になって初めて気付いたマルティネスの心の旅に、ヒントが隠されている。


 マルティネスを演じたフランシスコ・レジェスは、米アカデミー賞国際長編映画賞を受賞した「ナチュラルウーマン」(2017年)で主演したチリ人俳優。ロレーナ・パディージャ監督はメキシコ・アカデミー賞で新人監督賞にノミネート。世界各国の映画祭で上映されている。

(日本映画ペンクラブ会員、ライター)


2025年10月11日号掲載

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