ペリリュー 楽園のゲルニカ
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長野千石劇場(☎︎226・7665)で公開中

(C)武田一義・白泉社/2025「ペリリュー 楽園のゲルニカ」製作委員会
戦争がもたらす狂気 三頭身の主人公たち
パラオ諸島・ペリリュー島。南国のこの美しい島は太平洋戦争末期、激戦地となり、日本軍1万人は4万人以上の米軍相手に過酷な持久戦を戦い、多くの犠牲者を出した。「ペリリュー 楽園のゲルニカ」は史実を基に、漫画家志望の架空の兵士を主人公に、戦争の残酷さを描いたアニメ映画だ。
昭和19年。漫画家志望の21歳、田丸均は絵の腕前を買われ、仲間の最期の勇姿を遺族に向けて書き記す「功績係」としてペリリュー島にいた。無残な死でも美化した物語を書き記すことに、次第に違和感を覚え苦悩する田丸を励ましたのは、同期の上等兵吉敷だった。「生きて帰ること」を誓い合い友情を紡いでゆくが、彼らに下された命令は玉砕ではなく、本土決戦を少しでも遅らせるための盾となる持久戦だった。
南国ならではの美しい自然の風景が、激しい戦場へと一変する。そこは楽園ではなく地獄と化していた。彼らが強いられるのは武器も兵力も桁違いの過酷な地上戦。4倍もの敵兵と戦い洞窟に身を隠す。後の「硫黄島の戦い」へと続く。
2015年、当時の天皇皇后両陛下がペリリュー島に慰霊訪問された。原作者の武田一義はこのニュースを見て初めてペリリュー島の戦いを知り、漫画の制作を始めたという。
戦争がもたらす狂気を圧倒的なリアリティーで描き、第46回日本漫画家協会優秀賞を受賞。どこが異色かといえば、三頭身にデフォルメされたキャラクターたちの姿。かわいらしいものの、彼らが追い詰められる過酷な運命を、役者が演じる実写だったら果たして直視できただろうか。
1万人中生き残ったのはわずか34人だけ。今なお戦死した日本兵の多くの遺骨は残されたままだ。お国のために—と、多くの若者が戦場に命を散らした。
「自分の命は自分のもの」と声を出して言える平和な時代に生きていることが、どれだけ幸せなことか思い知らされる。
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
2025年12月13日号掲載
