133 紅葉の涸沢
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133 紅葉の涸沢

雄大な山岳景観を楽しむ

色づきはいまひとつだった涸沢の紅葉

 燃えるようなナナカマドの赤と、青空を突き刺す穂高の峰々-。カレンダーやポスターで見てきた北アルプス涸沢の紅葉を、9月末から10月初めにかけ見に行くことができた。

 あいにく今年は夏の長雨と9月の高温で色づきはいまひとつ。ナナカマドは赤くなる前にちぢれた葉が目立った。それでも願ってもない好天に恵まれ、カールを取り巻く雄大な山岳景観を楽しんだ。

 紅葉シーズンの涸沢は毎年、大変な人出となる。今年は新型コロナの影響で宿泊者数を制限しており、山小屋の予約を取るのは至難の業。同行した友人が何度も電話し、ようやく貸しテントに泊まることができた。

 初日は2人で7時に長野市内を出発。長野道を松本インターで降り、国道158号で沢渡(さわんど)へ。ここでシャトルバスに乗り換え、10時過ぎには上高地に。河童橋周辺で奥穂高岳と岳沢の眺めを楽しんだ後、明神へ向かう。

 明神池の周囲を散策し、嘉門次小屋で持参のおにぎりと、注文したイワナの塩焼きで昼食。さらに先の徳沢へ。

モルゲンロートに染まる涸沢岳

 若い頃は一気に涸沢へ向かったが、2人とも後期高齢者となり、徳沢でも貸しテントに泊まる。テント泊は何年ぶりだろうか。

 76歳の誕生日と重なった2日目は朝から快晴。5時に起床し、テント内でカップ麺の朝食。7時半に出発し、大勢の登山者と横尾を目指す。到着後、大きく揺れるつり橋を渡り、横尾谷に入る。ここから本格的な登山道だ。

 井上靖の小説「氷壁」の舞台となった前穂高岳東壁を仰ぎ見、大岩壁がそそり立つ屏風岩を回り込むと、休憩スポットの本谷橋に。河原で多くの登山者が休んでいる。少し早いが徳沢園で調達した朝食弁当で昼食にする。

 ここから急な上りが始まる。両側から覆いかぶさるようなダケカンバの林の中を進む。足元は石だらけの道だ。やがて前方の高台に、涸沢ヒュッテの目印のカラフルな吹き流しが見えてきた。

 整備された石畳や急な石段を上り詰めると、ヒュッテの入り口に。テント場中央にある案内所で貸しテントの使用手続きを済ませ、ヒュッテの屋上テラスへ。

 眼前に穂高連峰の大パノラマが広がる。前穂、奥穂、涸沢岳、北穂に囲まれたカール地形の涸沢は「日本離れ」した景観だ。秋にはここが紅葉に染まる。


カールにひしめく色とりどりのテント

 空き席を探し、列になって買い求めた生ビールを飲みながら、暮れなずむ山の景色の中に身を置く。ヒュッテ内の食堂で夕食を済ませた後テントに戻り、19時過ぎにはシュラフに潜り込んだ。

 3日目も雲一つない好天。4時半に起床し、テント内でカップ麺の朝食の後、外に出てモルゲンロート(朝焼け)に染まる穂高の峰々を仰ぐ。朝日が差す直前に上部がバラ色に染まり、日の出とともにその色が下へ降りてくる。30分足らずの光のショーだ。

 帰路は屏風岩の反対側を通るパノラマコースを下る予定だった。が、県警遭難救助隊基地の掲示板に「ヘルメット着用の上級者に限る」との張り紙が出ていたのを見て断念。往路と同じコースを下る。

 最終日は土曜とあって、登ってくる登山者がひきも切らない。遠方からのツアー客も多く、すれ違いに苦労する。混雑を避けるため、横尾からは梓川の河原を通る車道を歩く。

 さらに明神からは右岸の自然遊歩道を進み、13時半に上高地に到着。再びシャトルバスで沢渡へ下り、16時半には帰宅した。

横内房寿


2022年10月29日号掲載

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