11 村井先生との出会い
- 11月8日
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「揺らぎ」や「響き」を大切に 新しい世界が見えた思い

村井祐児先生との出会いは大学2年生の時でした。村井先生は留学先のドイツから帰国して武蔵野音楽大学の1年生を教えていました。村井先生の指導で1年生の演奏がめきめき上達しているのを見て、焦りを感じるようになりました。なぜ1年生がうまくなったのか。その理由は村井先生の指導によるものではないか—。そう考えた私は村井先生の演奏会に出かけました。
演奏会の印象は、村井先生とステージにいたバイオリンやチェロ、トランペットなど共演者の顔ぶれのすごさでした。欧州留学で腕を磨き、戻ってきてから日本のクラシック界に新しい風を吹かせ始めた若手ばかりを共演者に選んでいました。曲目もモダンで、ストラビンスキーやアルバン・ベルクなど、当時としてはかなり前衛的な曲を演奏していました。村井先生の演奏は素晴らしく心の底から感動しました。村井先生には時代の先を見る目があると感じ、師事したいと思いました。
村井先生に個人レッスンをお願いすると、快く引き受けてくれました。村井先生のレッスンでは、エチュードを吹いた記憶がありません。代わりに私の知らない古典曲でレッスンをしてくれました。私が古典曲を演奏すると、先生に「演奏していて面白いか」と聞かれました。簡単すぎるため「面白くないです」と答えると、「それは君が分かってないからだ」と言われました。
真意を測りかねましたが、作曲された時代背景や様式も分からず練習していたからでしょう。さらに、先生の演奏と聴き比べると、「揺らぎ」がないことに気づきました。私は、メトロノームの「カチ・カチ・カチ」という音に合わせて正確に吹くのが大切だと思っていたところがあったのですが、先生は、時には間や余韻を感じて「揺らぎ」や「響き」を味わいながら吹きなさいと言いました。村井先生のレッスンで、新しい世界が見えた思いでした。
レッスンの合間には、海外のクラシック音楽事情について詳しく教えてもらいました。千葉先生とは違った魅力がありました。大学では3、4年生の時に千葉先生のレッスンを受け、村井先生には4年生まで個人レッスンを受けました。村井先生には新しいことをたくさん学びましたが、これは千葉先生の下で鍛えられた基礎に支えられていると、後になって気づきました。クラリネットをうまくなりたいという思いの中、いいタイミングでいい指導者に巡り合えたと思います。
4年生になり、長らく毎日新聞社が主催していたことから「毎コン」と呼ばれていた「音楽コンクール(現・日本音楽コンクール)」に応募しました。しかし、武蔵野音大の選抜オーケストラが予定していたコンサート公演と日程が重なってしまいました。私は迷わず毎コン出場を決め、それを大学に伝えると呼び出され、注意されました。
毎コンは若手音楽家の「登竜門」で、学生のみならずプロの音楽家も出場してしのぎを削ります。ピアノやバイオリン、声楽などは毎年開かれますが、クラリネットなど管楽器は4年に1度しか開催されないため、ぜひ出場したいコンクールでした。出場を決めたものの、過去の武蔵野音大生の成績はあまり良くなかったこともあり、先輩や経験者から有意義な経験談や情報も得られませんでした。本番近くになって知った情報もあり、直前までドタバタした状態で、毎コン当日を迎えました。
(聞き書き・斉藤茂明)
2025年11月8日号掲載



