「嚥下食対応の出張カフェ」開業
- 9月27日
- 読了時間: 3分
最期まで諦めることなく 食べる楽しみを支えたい

管理栄養士 板倉麻希さん
バターや油を使わない「初秋のかぼちゃケーキ」、あんこで作った花を添えた「お祝い水ようかん」。どちらもかむ力や飲み込む力が低下した人向けに通常よりも柔らかく調理された「ソフト食」だ。フリーランスの管理栄養士板倉麻希さん(48)が、市内高齢者福祉施設デイサービス利用者の敬老の日の「おやつ」に提供した。
板倉さんは今年4月から「嚥下(えんげ)食対応の出張カフェ」を1人で立ち上げて活動を始めた。
長野市生まれ。2000年から今春まで、管理栄養士として市内3カ所の高齢者福祉施設に通算20年にわたって勤務。2012年に勤め始めた小規模の特別養護老人ホームは重度の入居者がいる施設で、「最期まで口で食べる」ことを大切にしていた。ここで「ソフト食」を学び、さまざまなメニューをソフト食の形態で作る経験と、それを食べてくれた入居者とその家族が喜んでくれる体験を重ねる。
「ソフト食」は、一旦調理した食材を個別にミキサーにかけて滑らかにした後、介護食用のゲル化剤などでゼリー化して元の形態に再形成する。口に入れた時にはとろけるようなイメージで、安全に味も損なわれずにおいしく食べられる。一方で、技術と手間がかかるため大量調理では提供が難しい。

20年から勤めた施設では、コロナ禍で家族との面会すらかなわない入居者を食で元気づけたいと、約2年の準備期間を経て、入居者とその家族が外食に行った気分で一緒にゆっくりと食事を楽しめる予約制の施設内カフェをスタートさせた。ソフト食で「寿司御膳」と「生姜焼き御膳」の2種類を開発し、選んでもらったメニューを提供できるようにした。家族からは「一緒にご飯が食べられてよかった」と感謝され、月に1回のカフェの予約は、すぐに半年先まで埋まった。
この経験で板倉さんは「もっともっと多くの食べることを諦めてしまった介護される人たちと家族の食を支えたい」と独立を決めた。

今は昨秋クラウドファンディングで南長池の工務店内に整備したキッチンを拠点に、赤ちゃんから高齢者、病気や障害の有無にかかわらずに食べられる「インクルーシブスイーツ」を開発。高齢者施設などの協力を得て、施設内で持ち込みの出張カフェを開いたり、デイサービスのおやつレクリエーションに参加したりするなどの活動を展開。地域の健康講座や介護食教室、栄養士の研修会などで講師を務め、ソフト食の普及活動にも取り組んでいる。
「個人の活動で一番関わりたいのは在宅で介護されている人の食支援。最期まで食べる楽しみを諦めることなく、その人らしく食べることを支えたい」と力を込める。
希望のメニューをソフト食で作るケータリングも受け付けている。
(問)板倉☎︎090・4392・3569
記事・写真 中村英美
2025年9月27日号フロント



