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サブスタンス

  • 5月24日
  • 読了時間: 2分

=2時間22分

長野グランドシネマズ(☎︎050・6875・0139)で公開中

(C)2024 UNIVERSAL STUDIOS

若さと美しさのため 再生医療が生む恐怖

 いつまでも若く美しくありたい—。人間の欲望に固執し破滅していく元人気女優を描いた「サブスタンス」。若さと美しさへの執着にとらわれた人間のおぞましさと狂気のホラー映画だ。 


 かつて一世を風靡したスター女優で、ハリウッドのウオーク・オブ・フェイム(名声の歩道)に名前が刻まれたエリザベス(デミ・ムーア)だが、年齢とともに仕事は減少し、50歳を過ぎ、唯一のレギュラー番組も容姿の衰えを理由に降板させられてしまう。プライドを踏みにじられたエリザベスが手を出したのは、より若く完璧な美しさを手に入れられるという再生医療薬品「サブスタンス」だった。


 それを接種すると、エリザベスに入れ替わって現れたのは、若くて美しいスー(マーガレット・クアリー)。2人の間には「7日ごとに入れ替わらなければならない」という絶対的なルールがあった。


 セクシーなニューフェイスとして注目を集めたスーの人気はうなぎ上り。スターの階段を駆け上るが、彼女の自由奔放で身勝手な行動がエリザベスを傷つけてゆく。


 母体と分身。2人で1人のルールから逸脱し互いへの憎しみが熟成されてゆく。スーの成功を初めは喜びながらも、容姿の衰えた自身の現実の姿に萎縮し始めるエリザベス。年齢とともに役を手に入れる難しさは多くの女優たちが経験する悲劇。デミ・ムーア自身の半生と重なるようだ。


 エリザベスの嫉妬と絶望、苦悩の揺らぎ。次第にむしばまれてゆく複雑な心理を演じきったデミの迫真の演技は、ゴールデングローブ賞の主演女優賞を受賞。アカデミー賞にもノミネートされた。デミ・ムーアのすさまじい怪演に引き込まれ、ついホラー映画であることを忘れてしまうほどだ。


 しみやしわ、肉体の老化などに悩み、アンチ・エイジングに励む女性たちの姿を投影させたコラリー・ファルジャ監督の脚本は、監督自身も経験してきた題材であり、カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞した。


 「女性の若さ信奉」むき出しのステレオタイプの男たち。プロデューサーを演じたデニス・クエイドの下品さは極めつけだ。そんな社会の風潮に怒りを爆発させるエリザベスとスーのバイオレンスは半端ない。驚愕のラストまで血の雨が降るので、血が苦手な人はご用心。15歳以上の「R15+」指定作品。

(日本映画ペンクラブ会員、ライター)


2025年5月24日号掲載

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