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国宝

  • 6月7日
  • 読了時間: 2分

=2時間55分

長野グランドシネマズ(☎︎050・6875・0139)で公開中

(C)吉田修一/朝日新聞出版 (C)2025映画「国宝」製作委員会

天賦の才能か血筋か 女形2人の光と影

 思いもかけなかった歌舞伎の世界に飛び込んだ男が、同い年の歌舞伎界の御曹司と互いに高め合い、希代の女形として歩んだ激動の半生—。吉田修一原作の小説を映画化した「国宝」は、歌舞伎役者として芸の道に人生を捧げた男の半生を描いた人間ドラマだ。


 任侠の家に生まれ育った喜久雄(吉沢亮)は、中学生の時に抗争で両親亡くし、歌舞伎界の人気役者、花井半二郎(渡辺謙)に引き取られた。部屋子として歌舞伎の修業に励み才能を開花させてゆく。花井家には同い年の御曹司俊介(横浜流星)がいた。共に厳しい稽古を積み重ね舞台デビューを飾ると、美貌の女形として2人が共演する舞台は人気を博してゆく。しかし病に倒れた半二郎が後継者に喜久雄を指名したことで、2人の運命は大きく狂い始める。


 天賦の才能か血筋か。歌舞伎という伝統の世界がかたくなに守る血統が鉄壁となって喜久雄の前に立ちはだかる。


 監督は「フラガール」(2006年)で日本アカデミー賞に輝いた李相日。吉田修一原作の映画化では「悪人」(10年)、「怒り」(16年)に次ぐ3作目になる。監督が一番キャスティングにこだわった宿命のライバル喜久雄と俊介。光と影のように2人の人生は幾多もの浮き沈みを経て、その芸に深みを増してゆく。


 そしてとにかく美しい。もともと男優でも美形の2人が、女形として舞台に登場したときのなまめかしさに吸い寄せられる。もちろん2人は歌舞伎界出身ではないが、物語さながら芸にまい進し、舞台で見せる見事さは驚くばかりだ。「連獅子」「娘道成寺」「鷺娘」「曽根崎心中」など、有名な演目が次々と演じられ、映画でありながら歌舞伎の世界を堪能させてくれる。


 寺島しのぶ、高畑充希、永瀬正敏ら、主演クラスの俳優たちが脇を固めているが、人間国宝の万菊役の田中泯が、スッと挙げた手のわずかな動作で一瞬に目を奪うのは芸の神髄ではないかと思う。


 見事なまでに歌舞伎の世界を再現した「芸道映画」は、まさに日本の伝統芸能の極みを見せつける。

(日本映画ペンクラブ会員、ライター)


2025年6月7日号掲載

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