オッペンハイマー
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オッペンハイマー

=3時間

長野グランドシネマズ(☎︎050・6875・0139)と長野ロキシー(☎︎232・3016)で公開中

(C)Universal Pictures. All Rights Reserved.

「原爆の父」惨状に苦悩 光と闇の半生を描く

 米アカデミー賞で作品賞、監督賞など最多7部門を受賞した、クリストファー・ノーラン監督の話題作「オッペンハイマー」。「原爆の父」して知られる天才理論物理学者の光と闇を描いた伝記映画だ。

 第2次世界大戦下の米国。核開発競争でナチス・ドイツに勝つために極秘プロジェクト「マンハッタン計画」が立ち上げられた。これに参加したJ・ロバート・オッペンハイマー博士(キリアン・マーフィー)は、優秀な科学者たちを率いて世界初の原子爆弾の開発に成功する。しかし、ドイツはすでに降伏しており、実戦で投下されたのは日本の広島と長崎だった。

 オッペンハイマーは、多くの犠牲者を出した被爆地の惨状を知り、苦悩する。米国はさらに、原爆よりも爆発力の大きい水爆の開発を進めようとする。そうした国家の方針に反対する姿勢をとったオッペンハイマーは、戦争終結の立役者から一転、スパイ容疑で聴聞会にかけられ、公職から追放されてしまう。

 ドイツからのユダヤ系移民の子としてニューヨークで生まれ、ハーバード大学卒業後、英国やドイツで理論物理学を究めたオッペンハイマー。学者たちとの交流を描いたシーンでは、仲の良い友人だったというアインシュタインと言葉を交わすシーンが印象深い。

 天才ゆえの未熟さを内包した複雑な人間性を演じたキリアン・マーフィーが米アカデミー賞主演男優賞を、オッペンハイマーと対立する原子力委員会の委員長ストローズを演じたロバート・ダウニー・Jr. が同助演男優賞を受賞した。

 演技派の俳優たちが脇を固めた人間ドラマの重厚さ。さらに大型IMAXカメラで撮影された映像に圧倒される。ごう音と鮮烈な光、真っ赤な炎がスクリーンを覆いつくす。映像では出てこないが、原爆が投下後の地獄のような惨状を知る日本人にとってつらく、悲しみに胸が詰まる。

 大量破壊兵器である核兵器が現存する世界で、核の平和利用などという言葉はむなしく響く。ノーラン監督は語る。「私たちはオッペンハイマーが作り出した世界に生きている。この賞を世界中の平和を構築する人々に捧げたい」。この声が、政治問題を戦争で解決しようとする権力者たちの心に届くことを祈りたい。

 日本映画ペンクラブ会員、ライター


2024年03月30日号掲載

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