異人たち
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異人たち

=3時間

長野グランドシネマズ(☎︎050・6875・0139)で 4月19日(金)から公開 R15+

(C)2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

死んだはずの両親と 出会い 意外な結末へ

 昨年11月に亡くなった名脚本家山田太一が1987年に発表した第1回山本周五郎賞受賞作の小説「異人たちとの夏」。「異人たち」は、この世の者でない異人たちとの出会いと別れを描いた同小説を、英国人監督が映画化した愛と喪失の物語だ。

 ロンドンのタワーマンションに暮らす脚本家のアダム(アンドリュー・スコット)は、12歳で両親を交通事故で失い、天涯孤独で生きてきた。ある日同じマンションの住人ハリー(ポール・メスカル)と知り合い、互いの孤独を感じとった2人は引かれ合ってゆく。

 両親との思い出をテーマに脚本を書き始めたアダムが、記憶をたどりながら昔住んでいた郊外の町を訪ねると、そこには30年前に死んだはずの両親が暮らしていた。失った時を取り戻すかのように足しげく通い、家族のぬくもりと愛情に満たされてゆくが、思いがけない結末が待っていた。

 きらめく都会の夜景を見渡す新築のタワーマンション。まだ入居者がいないのか窓の灯りは2部屋だけ。底知れない孤独の闇をさまようアダムとハリーの心象が伝わる風景だ。

 日本では1988年に大林宣彦監督で映画化された。今回は「荒野にて」(2017年)「さざなみ」(15年)で知られる英国人監督アンドリュー・ヘイが描く幻想的な世界に酔いしれる。 

 日本版と大きく違うのは、主人公が同性愛者だということ。脚本も手掛けた監督自身のパーソナルな部分を反映したそうだ。

 傷つくのを恐れ人との関わりを避けてきたアダムが、ミステリアスな隣人ハリーと恋に落ちる。息子から「ゲイ」と告白された母親は驚きながらも息子を励まし、心を閉ざして生きてきたアダムは解放されてゆく。アンドリュー・スコットの繊細な演技はゴールデングローブ賞で主演男優賞にノミネート。英国インディペンデント映画賞では作品賞など最多7冠を受賞した。

 「リトル・ダンサー」でデビューしたジェイミー・ベルが、父親役を演じているのも時の流れを感じさせる。

 時空を超えたファンタジーでありながら、男と女にとらわれない愛の多様性が物語に現代性をもたらしている。

 日本映画ペンクラブ会員、ライター


2024年4月13日号掲載

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