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アートプロジェクト最優秀賞

  • 9月20日
  • 読了時間: 3分

指定難病患者 市川孝子さん 

描き始めた、夫の実家近くの自然の風景の絵の前で話す市川さん
描き始めた、夫の実家近くの自然の風景の絵の前で話す市川さん
受賞作「飛行機の夢、もっと遠くへ」 自身を紙飛行機に重ねて…

体調見計らいながら絵筆を手に

受賞作品「紙飛行機の夢、もっと遠くへ」=アッヴィ合同会社提供
受賞作品「紙飛行機の夢、もっと遠くへ」=アッヴィ合同会社提供

 製薬会社「アッヴィ」(東京)が主催するアートプロジェクト「第5回アッヴィアートプロジェクト『パースペクティブズ』」で、指定難病の悪性関節リウマチの治療を続けている市川孝子さん(83)=上千歳町=が最優秀賞を受賞した。同プロジェクトは、関節リウマチや潰瘍性大腸炎、アトピー性皮膚炎といった免疫介在性炎症性疾患の患者が喜びや希望、目標を表現したアート作品を通して、病気や患者への理解を深めようと企画され、今回、6歳から88歳まで126点の応募があった。市川さんの受賞作品「紙飛行機の夢、もっと遠くへ」は、自身を紙飛行機に重ねて、花が咲く大自然に飛び立つ躍動感を色鮮やかな油彩で描いた。


 市川さんは仙台市生まれ。小さい頃から絵が好きだった。小学生の頃、1年生ながら全国の児童画展で1位を取った。中学高校でも絵を描き続けたが、大学では18世紀の英国詩人を研究した。大手自動車メーカーに勤務した後、結婚を機に、夫の実家がある長野県に引っ越した。


 市川さんが体調を崩し始めたのは1990年ころ。手足の関節が腫れ、神経まひを発症し、悪性関節リウマチと診断された。


 手術、入院をする中で、「結婚後に再開した絵が救いになった」と話す。当初は病室のベッドに横になっていたり、雨でぬれて飛べなくなった紙飛行機を描いたり。「絶望や痛みを表現した絵が多かった」と振り返る。そんな時、幼稚園に通う長男の「紙飛行機だって飛ぼうとするよ」という一言で気持ちが変わった。「健康は失ったけれど、絵を描くことは残った」と前向きになれた。家事を手伝ってくれる夫、担当医師への感謝を胸に、紙飛行機が街や自然の中に飛び出したり、虹を超えて飛んだりする様子などを独特の青や黄色を使い、希望を感じさせる明るい画風に変わった。


 現在、心臓には2本のステントが入り、間質性肺炎も発症し、ひどい息切れがある。右手は4本の腱が切れ、絵筆を握れない時も。満身創痍の中、体調を見計らい、絵筆を手にするが、力が入らなくなると指でキャンバスに向かう。


 県展入選の常連で、全国的な美術団体の一陽会や全国女流絵画協会の会員として作品を発表している。今回は、かかりつけ医の勧めで応募し、約2カ月間の短期間で描き切った。今年7月、同コンテストの表彰式でほかの受賞者と接して「テクニックに頼るのではなく、『生きたい』という心の叫びをほかの受賞者の絵から感じ、価値観が変わった」と話す。次回は、紙飛行機をメッセンジャーに見立て、「自分を信じて」との言葉を乗せて夜明けの街に飛ばすつもりだ。


 受賞作品は「アッヴィアートプロジェクト」のホームページから鑑賞できる。


記事・写真 斉藤茂明


2025年9月20日号フロント

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