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遠い山なみの光

  • 8月30日
  • 読了時間: 2分

=2時間3分

長野グランドシネマズ(☎︎050・6875・0139)で9月5日(金)から公開

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(C)2025 A Pale View of Hills Film Partners

戦後の長崎を舞台に 娘に語る母の記憶

 1954年長崎で生まれ、父親の仕事のため5歳で渡英し、日英2国の文化的背景に育ったノーベル文学賞作家カズオ・イシグロ。「遠い山なみの光」は、82年に刊行され、王立文学協会賞を受賞した同名の長編小説デビュー作の映画化で、出生地長崎を舞台に、時代と場所が交錯しながら語られるヒューマンミステリーだ。


 1980年代の英国の片田舎。英国人の夫と長女を亡くし一人で暮らす悦子(吉田羊)を心配して次女のニキがロンドンから訪ねてきた。作家を目指し、母悦子の半生を作品にしたいと考えるニキに乞われ、これまで口を閉ざしていた日本で暮らした頃の過去の記憶を語り始める。


 1950年代、戦後の復興が進む被爆地長崎。若き日の悦子(広瀬すず)は夫・二郎(松下洸平)と二人暮らしで妊娠中。元校長の義父緒方(三浦友和)は、戦後の教育の変化についていけず置き去りにされたままだった。


 幼い娘を連れて近所に越してきた佐知子(二階堂ふみ)は、米国兵との移住を夢見るシングルマザー。佐知子の奔放とも思える大胆さにあきれながらも、次第に交流を深めてゆく。


 日本をルーツとしながら英文学界で確固たる地位を築いたカズオ・イシグロは、英文学にこまやかな日本人女性の感情を描き出す。夫と社会に従順な悦子と、自己中心で男社会に挑むかのように振る舞う佐知子。まるでかみ合わない2人の会話を通して女性の自立や生き方、価値観が大きく変化した戦後の混乱した日本が見えてくる。合わせ鏡のような2人を演じた広瀬すずと二階堂ふみの存在感が際立つ。


 「ある男」(2022年)で日本アカデミー賞を受賞した石川慶監督が脚本と編集も手掛けている。この映画の制作総指揮も務めているカズオ・イシグロは、40年以上前に書いた原作が戦後80年の節目の年に公開されることが感慨深いと語る。


 30年という時空を交錯しながらつづられるのは、不条理さに満ちた世界でも希望を捨てない生き方。過去を受け継ぎ伝えてゆくことの大切さを込めた作品だ。

(日本映画ペンクラブ会員、ライター)


2025年8月30日号掲載

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