記憶を確認しにいく
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記憶を確認しにいく

「気になる物」の新たな魅力

マゼコゼの店内は広く開放的だ

 10月21日の「ながの門前まちあるき」は、「記憶を確認しにいく」がテーマ。案内人は、県立美術館の収蔵管理や企画運営に携わっている学芸員の鈴木幸野さん(42)。宮城県出身の鈴木さんがプライベートで立ち寄る店で「気になっていた物」について店に聞き、新たな魅力の発見につなげようという趣向だ。

 参加者は、楽茶れんが館を出発して、中央通りを下る。最初は大門町の「松葉屋家具店」へ。扉を開けると木の香りが中からあふれ出てきて、皆驚いた様子。店内には県内外から仕入れた何種類もの広葉樹の大きな一枚板が並ぶ。鈴木さんが興味を引かれる板の数々は、どれも形は同じではない。同店社長の滝沢善五郎さんはこれを木の個性と捉え、切り出された板の「ありのままの姿」の魅力について語った。

 次に長門町の「図書館・古本&ギャラリー マゼコゼ」へ。土蔵造りの店内へ入ると、開放的で温かみのある空間が広がる。1階は工房と喫茶スペースで分かれていたが、仕切りの壁を取り払う工事をし、先日カフェを再開したばかりという。書棚が並び、2階はギャラリーでまさに「混ぜこぜ」だが、不思議と居心地がいい。鈴木さんの「気になる」は「キッチンに積まれた形がそろっていない皿」で、さまざまな作家による皿が集められた様子は、同店のおおらかさを表している。

 3店目は信大教育学部前の「画材マチス」。長野へ来たばかりの頃の鈴木さんはこの店によく立ち寄ったそうで、ショーウインドーの片隅にある木製の小さな額縁がずっと気になっていたという。「今日はお店の案内と合わせ、これを買います」と鈴木さん。同店によると、現在流通する額縁は金属や樹脂による規格化されたものが多く、個性的な木製の額縁はなかなか入荷しない傾向にあるとのこと。


「鯉焼き」が人気の藤田九衛門商店の店舗。奥に薪が積まれている

 次に向かったのは、仲見世通りを通って城山小近くの「藤田九衛門商店」。たい焼きならぬ「鯉(こい)焼き」で知られる同店。鈴木さんは、店の横に積まれている薪(まき)が鯉焼き作りに関わっているのだろうかと気になっていたそうだ。しかし店に話を聞くと、この薪は入り口横に据えてある、燃焼効率の良い土づくりの「ロケットストーブ」に使われるという。店内のベンチの下に煙突が通り、冬は座ると暖かくなる仕組みになっている。鈴木さんはちょっと残念そう。

 続いて城山公民館を訪れ、建物の南側へ回る。市街地や山並みを借景に、なだらかな起伏がある庭園のような光景が広がる。鈴木さんはここに植えられた木々に興味を引かれるといい、明治以降に城山が公共の場所として整備された経緯を話した。

 最後は県立美術館3階のカフェで一息。参加者からは「気になっていた店に初めて入ることができた」という声も聞かれた。

 記事・森山広之


2023年11月4日号掲載

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