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急に具合が悪くなる

  • 6月20日
  • 読了時間: 2分

=3時間16分

長野ロキシー(☎︎232・3016)で公開中

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病や命を語り合う 女性2人の魂の深淵

 「急に具合が悪くなる」は、ダブル主演の岡本多緒さんとビルジニー・エフィラさんがそろってカンヌ国際映画祭で主演女優賞を受賞、日本の俳優が女優賞を受賞したのは初という話題作。哲学者の宮野真生子さんと人類学者の磯野真穂さん(安曇野市出身)が病や命について交わした往復書簡を収めた共著が原作だ。


 パリ郊外の介護施設のディレクター、マリー(ビルジニー・エフィラ)は、革新的な介護技術を取り入れ入居者たちと向き合っていた。研修を受けながら介護をする大変さにスタッフの中には露骨に反発する者もいた。行き詰まったマリーは偶然知り合った舞台演出家の真理(岡本多緒)と俳優の清宮(長塚京三)の舞台を観劇する。イタリアの精神科医バザーリアを取り上げた一人芝居に感銘したマリーは、真理と本音で語り合うのだった。


 がん闘病中の宮野さんと磯野さんの共著を読んだ濱口竜介監督は、死を恐れるのではなくいかに生きるかを問うた生命力あふれた内容に引かれたという。


 進行性のがんで余命半年と宣告された真理。「急に具合が悪くなったら覚悟してください」。医者から告げられた言葉がタイトルとなった。人間は老いや死から逃れることはできない。急に具合が悪くなるのは誰にでも起きる。これは自分自身の物語でもあるのだ。


 マリーが実践する「ユマニチュード」とはケアの哲学や技法で、患者を感情や意思を持つひとりの人間として、尊厳をもって対応すること。命や病への深い洞察力と示唆に富んだ内容が、濱口監督が脚本の題材として取り上げたきっかけとなった。


 濱口監督の前作で、米アカデミー賞国際長編映画賞を受賞した「ドライブ・マイ・カー」(2021年)では映画の中の演劇が印象的だった。今回、パリ公演の一人芝居を演じた長塚京三の舞台シーンも素晴らしく、濱口監督のオリジナルの脚本だそうだ。幾つもの視点で描かれた物語は、3時間を超える長尺な作品であることを忘れてしまうほど引き込まれてゆく。


 日本語とフランス語。互いに相手の国の言葉で語り合う真理とマリー。言霊のように心に響き合う2人の女性の会話は、魂の深淵(しんえん)な世界をのぞき込むかのような心地よさがある。


(日本映画ペンクラブ会員、ライター)



2026年6月20日号掲載

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