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シンプル・アクシデント/偶然

  • 4 日前
  • 読了時間: 2分

=1時間43分

長野ロキシー(☎︎232・3016)で5月8日(金)から公開

(C)LesFilmsPelleas

本当に復讐の相手か 人違いの訴えに戸惑う

 「シンプル・アクシデント/偶然」は、イラン政府からの弾圧で母国での映画製作や上映を禁止されながらも映画を作り続けてきた巨匠ジャファル・パナヒ監督が、イラン社会を舞台に描いたサスペンス映画だ。


 ある夜、ワヒド(ワヒド・モバシェリ)が働く工房に、事故で故障した車の修理を頼みに男の客が来た。その客の足を引きずる独特な足音に、ワヒドの脳裏におぞましい過去の記憶が呼び起こされた。かつて政治犯とみなされ不当に投獄され拷問を受けた日々。ワヒドに暴力をふるい続けた残忍な看守は、シリア内戦で片足を失った義足の男だった。復讐(ふくしゅう)の相手と確信したワヒドは男を襲い殺そうとするが、かたくなに人違いを訴える男に戸惑う。というのも拷問中は目隠しをされていたため看守の顔は見ておらず記憶は足音だけだった。看守と断定するため、獄中で出会った元囚人たちを訪ねるが…。


 偶然の事故をきっかけに再会した人々。憎しみをあらわにする者もいれば、冷静に罪を問う者もいる。本来なら好人物であるワヒドも、拷問や辱めを受けすべてを失った怒りを抱えたままだ。だが復讐を迷うことでそれぞれの人間性や正義への問いかけが描かれる。不条理劇の傑作とされる戯曲「ゴドーを待ちながら」をほうふつとさせる、砂漠に1本だけの木のシーンが印象的だ。


 イランの人々のリアルな姿を捉え続け、世界3大映画祭すべての最高賞を制覇したジャファル・パナヒ監督。自身も抗議活動に参加して2度収監された経験と、獄中で出会った実在の人々の体験がキャラクターづくりに反映されているそうだ。シリアスなテーマでありながら、どこか軽妙なユーモアさえ感じることに、不可思議な魅力がある。


 民衆から生まれた「女性、命、自由」運動。市民的不服従の声が上がり始めたイランは、世界経済に影響を与えるホルムズ海峡閉鎖など今まさに戦争の混乱のさなかにある。


 極秘で撮影されたという本作はカンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドール賞を受賞。アカデミー賞の国際長編映画賞と脚本賞の2部門にノミネートされた。


(日本映画ペンクラブ会員、ライター)



2026年5月2日号掲載

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