42 感応度逓減性 お金の損得に[慣れ]の心理
top of page

42 感応度逓減性 お金の損得に[慣れ]の心理

人間には環境や外部からの刺激に対応する能力があります。

 これは「順応」と呼ばれ、明るさや暗さに対する慣れや、匂いや味への慣れがそうです。

 実はお金の損と得においても同じような慣れが生まれます。例えば無一文の時に1万円をもらえたら喜びは大きいはずです。しかし既に10万円もらった後に1万円得しても、無一文の時ほどの喜びは湧かないものです。ある程度大きな得(10万円)の喜びに慣れてしまうと1万円は少しの得に感じられます。これは損によって感じる悲しみでも同様です。この心理を「感応度逓減(ていげん)性」と呼びます。

 通信販売の手法を例に、「感応度逓減性」の心理について考えてみましょう。例えば、司会者がテレビなどで、「定価10万円のこのノートパソコン、今なら1万1000円安くします!」と言います。視聴者はお得だと思い、注目します。続いて司会者は「今お買い上げの方には持ち運びに便利な定価2500円のパソコンケースもプレゼントします」と加えます。視聴者は買おうかと思い始めます。

 それで終わらずに司会者は「さらに今だけ! 1500円のUSBメモリーも付けましょう」とさらにアピールします。迷っていた視聴者もこれを決め手に買うことを決めます。

 この販売手法は「ザッツ・ノット・オール(That’s Not All)」と呼ばれます。日本語で「それが全部じゃないよ」という意味です。売る商品を提示した後に、おまけや割引を次々に加えていくのです。割引とおまけの金額を合計して、「1万5000円のお得です」とアピールするのではなく、割引やおまけによる得を別々に見せるのがポイントです。

 「1万1000円安く」「ケース(2500円)がお得」「USBメモリー(1500円)がお得」と、3回に分けて挙げる場合は、それぞれが別々の「お得」と捉えられ、新鮮な気持ちで新たに「お得感」を覚えるので、「感応度逓減性」の心理が起きず、「お得への慣れ」も避けられます。そして購入意欲を増加させるのです。

 行動経済学で解明された人間心理の知識を蓄えて賢い消費者になることをお勧めします。

マーケティングコンサルタント


2021年5月22日号掲載

bottom of page