19 現在志向バイアス 目の前の事柄を過大評価

健康長寿は昔から、人々の大きな関心事でした。

 現代でも健康を願う人たちは、肥満や喫煙、生活習慣病の話題に関心を寄せます。健康を大切にする人にとって、人間の不合理な側面を解き明かしてくれる行動経済学は役立ちます。なぜなら健康を損なう大きな原因は、不合理な行動にあるからです。

 例えば、禁煙ができない理由の一つに「現在志向バイアス」があります。これは未来の利益よりも現在の利益を優先する心理です。目の前にある事柄を過大に評価してしまうことです。

 スタンフォード大学の心理学者ウォルター・ミシェル氏は「マシュマロの実験」で、この心理を解明しました。4歳児を実験室に入れます。そこにはマシュマロが1個置いてあり、「15分間、このマシュマロを食べずに我慢すれば2個あげる」と告げます。結果、15分間我慢できた子どもは3分の1ほどでした。一定時間我慢すればもっと多く食べられると分かっていても、目の前にある一つを食べてしまうのです。

 この心理は大人も同様です。将来の健康を気遣って禁煙するのが良いと理解していても、一時の喫煙の喜びを優先してしまう人、ダイエット計画を作っても、目の前の好物に手を出して食べ過ぎてしまう人は、現在志向バイアスに影響されている可能性があります。

 対策としては、現在志向バイアスがあることを自覚することが有効です。例えば、ダイエットを決意しても、食べる喜びを優先させてしまう自分の弱さが分かっている人は、有料の運動ジムに入会して、現在志向バイアスを断ち切る、といった行動です。

 一方、現在志向バイアスを人間関係に活用する方法もあります。あなた自身の行う「目の前の事柄」を相手に「過大評価させる」のです。例えば、初めて訪問した仕事の相手にすぐに礼状を送る、もらったメールへの返信は素早くする―などの行動は、ビジネスマナーとして、単にマナーを大事にする人と思ってもらうだけでなく、自分の行動(目の前の事柄)を相手に高く評価させる効果があります。

 行動経済学の知識があると、こうしたマナーの一方にある、人間関係を操作する仕掛けの意味も理解できます。

(マーケティングコンサルタント)


(2020年11月21日号掲載)