13 ブレークイーブン効果 損得ゼロに戻し喜ぶ心理
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13 ブレークイーブン効果 損得ゼロに戻し喜ぶ心理

「リベンジ(報復性)消費」という言葉を聞いたことはありませんか。

 コロナ禍で外出の自粛を余儀なくされた人々が、制限の緩和後、反動で買い物に走る現象で、中国で顕著に起きたようです。不思議なのは、たくさん買い物をしたいという欲求の高まりです。

 新型コロナはもちろん、経済情勢に関しても将来は未知数なのですから、人々が消費に慎重であっても不思議はありません。それにもかかわらず財布のひもが緩む心理には「ブレークイーブン効果」が働いている可能性があります。これは、損した状態から損得ゼロまで戻そうと強く求める心理です。

 株が値下がりした後も持ち続け、相場が回復し、買い値に近づいた段階で売却することを、投資の世界で「やれやれ売り」と呼びます。この「やれやれ」は、得する以上の喜びを伴うとも言われ、これもブレークイーブン効果の影響です。

 米シカゴ大のリチャード・セイラー教授は、これを証明する実験を行いました。被験者はギャンブルで30ドル負けた直後という設定で、A、Bのどちらかを選びます(カッコ内は選んだ人の割合です)。実験(1)「A:50%の確率で9ドルもらえて、50%の確率で9ドル失う(40%)」「B:何ももらえないし、何も失わない(60%)」。

 次も30ドル負けている前提で選びます。実験(2)「A:33%の確率で30ドルもらえて、67%の確率で何ももらえない(60%)」「実験B:何ももらえないし、何も失わない(40%)」。

 実験(1)でBが多かったのは、どちらを選んでも損を挽回できないので無駄な賭けを避けたためです。実験(2)ではAを選ぶと、運が良ければ損を解消できるので、分が悪くとも多くの人が賭けに出たのです。リスクを取っても損得をゼロに戻すことには喜びを伴う強い魅力があります。

 自粛緩和後、買い物に走るのはこの心理の影響でテンションが上がるからでしょう。ほかにも例えば、親友とけんかした後に仲直りしたら、さらに仲良くなったという経験のある人はいませんか。不愉快な思いをした後、元に戻ると喜びは倍増します。そんな気持ちの裏にも心理的バイアスは存在するのです。

(マーケティングコンサルタント)


(2020年9月12日掲載)

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