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11 後知恵バイアス こうなると思っていた...

子どもの頃、親から「宿題をやりなさい」と注意され、「これからやろうとしていたのに」と言い返した経験はありませんか。

 この心理は「後知恵バイアス(先入観・偏見)」の影響と考えられます。物事が起きてから、それが予測可能だったと考えてしまう心理です。  この後知恵バイアスを証明した実験として、心理学者バルーク・フィッシュホフらが、ニクソン米大統領の中国訪問(1972年)に関し、学生ら被験者に質問を行いました。  当時、米中両国は対立関係にあって交渉は秘密裏に進められ、米大統領の中国訪問は電撃的なニュースでした。  実験では、大統領が中国に出発する前に、「中国の毛沢東主席が会談に応じる」などの質問項目が実現するかどうか推定してもらいました。そして、中国訪問後に、同じ被験者に、自分は同じ質問項目にどのような予想を立てていたのかを思い出すように求めました。  すると、実現した事柄については、実現すると事前に予想していたと答えた被験者の割合が、事前の質問結果の割合を上回ったのです。人は、後で知った知識なのに以前から分かっていたと勘違いするのです。この心理の影響は私たちの身近に多く見られます。  例えば、監督が選手交代した後に逆転されて負けた試合について「こうなると思っていた」とコメントするスポーツ評論家です。また、会社で、新プロジェクトが成功した後、「プロジェクトの成功を確信していた」と吹聴して、担当の部下よりも目立とうとする上役もそうです。後知恵バイアスは、チャレンジへの正当な評価を誤らせることもあるのです。  それは、より大きな問題にも発展しかねません。後知恵バイアスで批判されるリスクを避けて保守的に行動するケースです。例えば医師が、「この医療ミスは予測可能だった」と後知恵バイアスで批判されるリスクを恐れるあまり、検査に時間をかけ過ぎたり、途中で別の専門医に担当を移したりしたために、病気が進行、悪化する危険もあります。  こう考えると後知恵バイアスは、意外に危険です。個人だけでなく社会全体において、慎重に避けるべきバイアスと言えそうです。 (マーケティングコンサルタント)

(2020年8月22日掲載)


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