25 サンクゼールの森

信濃町に敷地11万平方メートル 自然と共存して企業活動

リンゴの産地フランスのノルマンディー地方を訪れて以来、ずっと憧れていたカルバドス(アップルブランデー)を初蒸留した記念に、C・W・ニコルさん(右)と乾杯する私


 飯綱町に本社を構えてから20年以上がたち、事務所が手狭になってきました。新たに用地を探していたら、金融機関から「信濃町で工場と一帯の森が売りに出ている」と聞き、すぐに見に行きました。

 広い森の中に3000平方メートルほどの工場が立つ景観は、欧米のワイナリーや、イタリアで見たバルサミコ酢の醸造所に似ていました。「サンクゼールの丘」(本社)を造った飯綱町の丘を初めて見たときに感じたように「この場所はサンクゼールに合っている」と心が揺さぶられました。森は十分な広さがあるので増築もできるし、将来いろいろな夢を広げることができそうだと思いました。

 2013年、工場と一帯を取得して「サンクゼールの森」としました。森を含めた敷地全体で11万平方メートルほどあります。古い工場と事務所をリフォームし、総務、経理、商品開発、デザイン、IT関係、店舗管理、ECロジスティックスなどのバックオフィスとして使っています。生産拠点であり本店やレストランのある飯綱町の本社は変わらずお客さまへのプレゼンの場として重要な拠点です。

 2、3年のうちに、信濃町のオフィスに企業内保育所をつくる計画もあります。入社後に結婚、子育てをするスタッフが多く、整備の必要があると感じていました。どういう保育所にしていくかを、専門家のアドバイスをもらいながら総務のスタッフが中心になり研究中です。環境を生かして、森で木登りをしたり、畑で野菜を育てたりといろいろなことができるので、食育や企業内保育所としてモデルになるようなものにしたいと思います。

 また、サンクゼールの森とサンクゼールの丘には、希少な動植物が生息しています。信州大学教育学部森林生態学研究室の井田秀行教授や、私の大学時代の同級生が理事長を務める山階鳥類研究所(千葉県)に毎年、動植物の生態を調査してもらっています。専門家の意見を聞き、自然と共存して企業活動をしていく—。それが、企業人としての責任の一つだと思っています。

 信濃町では、作家のC・W・ニコルさん(1940〜2020年)が長年、森林保全の活動をされていました。ニコルさんが生まれ育った英国ウエールズで、石炭の採掘と廃坑で荒れていたアファンの森が人々の手で再生しました。それを知ったニコルさんは、放置されて荒れていた信濃町の森をご自分の印税収入で買い取り「アファンの森」と名付けて、木を間伐して光を入れて、見事に復活させました。児童養護施設の子どもたちなどを毎年森に招待している活動にも共感するところが多いです。

 ニコルさんは、以前から飯綱町の本店に遊びに来たり、ご家族とレストランに食事に訪れたりと、個人的にはご縁がありました。信濃町にオフィスができたこともありアファンの森を訪問すると、大変喜んでいただき、それがきっかけで鹿肉の手作りシチューやカレーなどをごちそうになるなど、交流が始まりました。

 動植物が生き生きとすめる場所を守ろうという、ニコルさんのアファンの森の活動に共感した私たちは、同じ町内なので長期的に支援したいと考え、一昨年、弊社は「C・W・ニコル・アファンの森財団」とオフィシャルスポンサー契約を結び、財団と定期的に交流しています。

 ニコルさんはちゃめっ気があり、話も楽しく気持ちも優しい方でした。突然の訃報で寂しく残念です。「カントリージェントルマンとして頑張りたいね!」とおっしゃっていたことが思い出されます。お好きだった「いいづなアップルブランデー」を飲みながら、もっとお話を聞きたかったです。

聞き書き・松井明子


2021年8月7日号掲載