20 あかね大根焼酎

「日本一おいしくない…」 注目集める「仕掛け」効果

松本市の「IHIシバウラ」(当時)で講演する私

 2006年ごろ、旧清内路村(現阿智村)が、特産の「あかね大根」を原料にした「あかね大根焼酎」を製品化しました。村から「どう売ればいいか。アイデアを貸してほしい」と頼まれた私は、試飲してみて、「あかね大根焼酎だけでは香りがきつ過ぎる。何かと食べ合わせたらどうだろう」と考えました。いろいろ試す中で、甘いチョコレートとまんじゅうと一緒に味わったら抜群の相性でした。

 私は「チョコレートとまんじゅうにしか合わない、日本一おいしくない焼酎」として「仕掛け」たら注目を集め、面白がられて人気が出るのではないか、と提案しました。後日、公民館に村の人を集めて、チョコレートとまんじゅうと一緒にあかね大根焼酎を飲むイベントを開くと、村の人口約600人のうち100人ほどが集まりました。改めて私のアイデアを提案し、味わってもらうと、「意外と合う」という声がほとんどでした。

 南信の小さな村が「チョコレートとまんじゅうにしか合わない日本一おいしくない焼酎」という変わった商品を売り出すと発表すると、新聞、テレビが興味を示しました。発表会を開き、村の公民館でおじさん、おばさんたちが口々に「あかね大根焼酎だけだとおいしいと思わないけど、チョコレートやまんじゅうとは合うね」と話し、発表会の様子は新聞紙面を飾りました。製品3千本は1カ月で完売しました。

 ただ、これは「変化球」で一時的なもの。村長に、「人気を定着させるために、ブランデーの熟成用の(樽)(たる)に、焼酎を寝かせてみてはどうでしょう」と提言して、フランスから樽を2本買いました。理由は、ウイスキーもブランデーも造ったばかりはあまりおいしくない。あの香りの9割は樽の香りです。あかね大根焼酎の土っぽい独特の香りは、樽で寝かせると木の香りとマッチするかもしれないと読んだわけです。案の定、これが見事に合いました。

 あかね大根焼酎は、熟成度に合わせて「あかねちゃん」「熟女あかね」、さらに10年熟成は「美魔女あかね」と名付けて売り出しました。2万本以上のあかね大根焼酎が売れています。

 08年、松本市の「IHIシバウラ」(現・IHIアグリテック=本社・松本市、北海道千歳市)から「会社の価値を高めたい。ブランディングのヒントを講演してほしい」と依頼された私は、「ブランド創造物語を仕掛ける。(茜)(あかね)大根焼酎の奇跡」と題して講演しました。

 私は、商品を注目させる際には効果的な「仕掛け」が重要と訴えました。あかね大根焼酎の場合、仕掛けは「チョコレートとまんじゅうとの意外な食べ合わせ」のほかに、酒販店への「販売許可制」がありました。村や村民の様子、あかね大根の栽培状況などを説明できることを条件に、村が酒販店に販売許可証を与えるのです。販売条件を提示された商品は、売る店側も希少価値を感じて扱いたくなるものです。「価値を上げる『仕掛け』に知恵を絞ってください」と、社員ら約500人に講演しました。

 講演は、2000年ごろから依頼が来るようになり、ワイナリーの立ち上げや経営、町おこし、企業からは商品開発やブランディングなどについて講演を頼まれます。私の見聞、実行してきたことが多くの人に伝わり、お役に立てれば—と「呼ばれればどこへでも」出かけました。

 聞き書き・斉藤茂明


2022年9月24日号掲載