自分の家の中を見て、物が多すぎると思ったことはありませんか。
知り合いの家に行き、きれいに整えられたリビングを見て劣等感を感じる人もいるようです。かといって、物であふれかえった自分の家を片付けるのは容易ではありません。
不思議なことに、自分の持ち物は、家の中にあふれていても気にならないものです。逆に家族の持ち物が多すぎると腹が立ってしまい、それが家庭内でのいざこざにつながることもあります。
実は、ここにも人間の不合理な判断が隠れています。行動経済学者ダニエル・カーネマン教授は、「マグカップの実験」により、心理学的に説明しました。
実験は被験者の学生をランダムに売り手グループと買い手グループに分け、売り手グループには大学のロゴ入りマグカップをプレゼントし、いくらなら買い手グループに売るかを聞きます。もらわなかった買い手グループには、いくらなら買うか値付けをしてもらいます。その結果、売り手の付けた値段が買い手の2倍以上という大きな差が生まれました。何の変哲もないマグカップに売り手は、買い手にすれば予想外の高値を付けたのです。
原因は「保有効果」という心理です。人は一度、手元に置いた所有物に価値を感じ、手放したくないという心理が働きます。この実験でマグカップの買い手に保有効果は働かなかったので冷静な値段付けができました。
部屋の片付けも同じです。クローゼットにあふれる奥さんの服の多くが旦那さんには流行遅れの不要物に見えたとしても、愛着を感じている奥さんは手放せません。
注意すべきは、この過剰な愛着も「無意識の心理」である点です。着ない服は捨てろと言われた奥さんは理屈で分かってもその気にはなれず、反発するかもしれません。夫婦の関係を悪化させないために大切なのは、お互いが「捨てられない心理」のからくりを知ることです。
お互いの判断、主張が不合理な心理に基づいていることを理解すれば、部屋だけでなく、家族の人間関係も整えられるのかもしれません。
(2020年6月6日掲載)
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