ワインブドウの「聖地」へ 村と二人三脚で栽培普及
2004年ころ、初当選から間もない高山村の久保田勝士村長が、ある会合で私に「村にたくさんある遊休農地でワインブドウを栽培し、原産地呼称管理制度で認定されるようなワインを造って村を活性化させたい」と力強く夢を語りました。その情熱に私も押され、「世界的なワインブドウの産地にしましょう」と意気投合しました。
当時の高山村では、ワインブドウ栽培家の佐藤宗一さん(故人)が、フランスの産地と同じ方法で質の高い見事なシャルドネを栽培し、日本のワインコンクールで何度も優勝するほど素晴らしい品質でした。
「佐藤さんを村のワインブドウ栽培のリーダーにしていこう」と考えた私は、「高山村をワインブドウの産地として全国に発信したいので手伝ってほしい」とお願いすると、佐藤さんは快諾してくれました。村長がやる気満々で、身近に偶然にも天才的な栽培家がいた。私は仕掛けるだけでした。
まず、高山村の気候や土壌、歴史、産業などが詳しく書かれた村史を読み込みました。村の標高差は約千メートル、気象は、イタリアの温暖地に似た地域が須坂市近くにあり、逆に山田牧場周辺はオーストリアやスイスに似て冷涼。土壌は、志賀高原から土に交じって流れてきた石が堆積していて水はけがいい。稲作に適さない代わりにブドウ栽培には適地でした。高山村は、イタリアからスイスに至る世界的ワインブドウ産地に似たまれな地域だったのです。村の人との「勉強会」でこのことを説明すると、みんなびっくりした表情を見せました
ワインブドウは巨峰などの生食用に比べ単価は安いものの、消毒など手入れは簡単で、広い面積を1人で栽培管理することができます。「今後、農家の高齢化や減少を考えるとワインブドウの方がメリットが大きく、村長もやる気になっている」と勉強会で説明しました。そして、日本トップクラスのシャルドネを長年作っている佐藤さんは村の農家の人たちのいい手本になると考えました。こうして「高山村ワインぶどう研究会」が立ち上がりました。
村のほぼ中心には建設業の角藤(長野市)が所有する広い土地がありました。私たちは角藤の社長に「あの土地をワインブドウの栽培に使わせてほしい。農場長は日本トップクラスの栽培家の佐藤さんが就くので、将来は有望」と直談判し、農業法人「角藤農園」が設立されました。社長がワイン好きだったのも功を奏したかもしれません。ワインブドウは、サンクゼール(飯綱町)や、サントリー、メルシャン、安曇野ワイナリーにも納め、いいワインができ、上々のスタートを切りました。その後の勉強会では、ワイナリー立ち上げのシミュレーションなどについて話しました。高山村は、リンゴの産地でもあったため、リンゴ農家を巻き込み、リンゴのアイスワインも造りました。
こうした活動を地道に続けたことで、村の人は自信を深めるとともに全国的にも高山村は認知され、ワインブドウ栽培を目指す人たちの間では、「ワインブドウ栽培の聖地」と言われるようになりました。
村はアパート建設など受け入れ態勢を進め、新規就農者を呼び込むことに成功。高山村はワインブドウの全国的な産地になりました。
(聞き書き・斉藤茂明)
(2022年7月30日掲載)
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