=2時間
長野グランドシネマズ(☎︎233・3415)で公開中

(C)2023「ヴィレッジ」製作委員会
閉ざされた村社会 心に闇抱えた青年
小さなコミュニティーに暮らす村の住人たちは、誰もが顔見知りで親しくもある半面、時には威圧的になり、閉塞感を強める。「Village ヴィレッジ」は、閉ざされた、狭い村社会に生きる青年の葛藤を描いた社会派ヒューマンサスペンスだ。
美しいかやぶき屋根が点在する霞門村。村の財源になっているごみ処理施設で働く片山優(横浜流星)は、かつて父親が起こした事件の汚名を背負い、村人の冷たい視線に耐えながら息をひそめて暮らしていた。
都会に出ていた幼なじみの美咲(黒木華)が帰郷してから、これまでの人生が一変する。美咲が企画したごみ処理施設のツアーガイドを引き受けた優は、環境問題への取り組みをアピールする朴訥な好青年ぶりが注目を集め、自信と明るさを徐々に取り戻していく。
互いに傷を抱えた優と美咲は引かれ合い、未来への希望を手に入れたかのように見えた。しかし代々村長を務める名家の青年、透が、父親の権力をかさに傍若無人に振る舞い、恋人たちに暗い影を落とし始める。
「新聞記者」(2019年)で日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した藤井道人監督が、オリジナル脚本で鋭く突くのは日本社会の闇。同調圧力や格差社会、貧困のループが、社会を覆う息苦しさへとつながる。
大自然の中にそびえ立つ巨大なごみ処理施設は、まるで要塞のようであり、牢獄のようにも見える。環境に配慮する企業の表の顔と、産業廃棄物の不法投棄を金のために見て見ぬふりをする裏の顔。優もまた心ならずも加担させられている。もがき続ける優を持ち上げては、はしごを外す人間の醜悪さ。横浜流星自身も、藤井監督と脚本作りの段階から関わり、キャラクターをつくり上げていったというだけに、心に闇を抱えた複雑な青年を、繊細に演じきった。
この物語の象徴的な存在が、村に伝わる伝統芸能の薪能だ。劇中に登場する演目「邯鄲(かんたん)」。中国、唐の時代に一人の青年が栄華を極めたはかない物語が、優の人生と重なるかのように寄り添う。歌舞伎役者の中村獅童が能楽師として演じる、幻想的な薪能の舞台も見どころだ。
日本映画ペンクラブ会員、ライター
2023年4月22日号掲載