=1時間49分
長野ロキシー(☎︎232・3016)で公開中
(C)WILLOW ROAD FILMS LIMITED, BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2023
英国のシンドラー 思いがけない再会
オスカー・シンドラーと杉原千畝。この2人のほかにも、ナチス・ドイツのホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)から多くのユダヤ人の命を救った人物がいた—。「ONE LIFE 奇跡が繋(つな)いだ6000の命」は、「イギリスのシンドラー」と呼ばれたニコラス・ウィントンの知られざる実話を基にした映画だ。
1938年、ナチス・ドイツによる迫害を恐れて何万人ものユダヤ人難民がチェコスロバキアのプラハに逃れてきた。プラハでの難民たちの悲惨な様子を聞き、遠くロンドンで立ち上がった一人の青年がいた。ニコラス・ウィントン。彼はプラハに渡り厳しい現状を目の当たりにすると、せめて子どもたちだけでもイギリスに避難させたいと考え、イギリス難民委員会や同じ考えを持つ仲間たちと奔走する。
ナチスの侵攻が迫るなか、子どもたちを乗せた列車が次々と出発するが、ついに第2次世界大戦が始まり避難は中断する。50年後、救えなかった子どもたちを忘れられず、自責と後悔の念を抱えて生きてきたニコラス(アンソニー・ホプキンス)は、あるテレビ番組からの出演依頼がきっかけで、思いがけない再会を果たす。
このテレビ番組を見てニコラスの存在を知ったプロデューサーによって、映画化への企画がスタート。謙虚な人柄のニコラスは映画化を了承したものの、自分一人を賛美するものにしないことを希望したという。ニコラスの娘バーバラが父親のことを書いた著書を原作にリサーチを積み重ね、映画が完成するまでに15年の歳月をかけている。ニコラスに救われた家族の子孫を世界中から探し出し、実際に家族役で出演しているのも、こだわりのシーンとなっている。
シンドラーの墓石に刻まれた言葉は「一人の人間を救う者は全世界を救う」。ニコラスがイギリスに脱出させた子どもは669人に上る。いまだにやむことのない戦争で、命の危険にさらされている子どもたちの存在を忘れてはならない。
日本映画ペンクラブ会員、ライター
2024年8月10日号掲載
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