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正欲

=2時間14分

長野ロキシー(☎︎232・3016)で公開中


(C)2021 朝井リョウ/新潮社 (C)2023「正欲」製作委員会

自身の二面性に悩む 男女5人の葛藤描く

 今ほど社会の中でのマイノリティーの生きづらさが叫ばれている時代はないのでないか。「正欲」は、自身の二面性に悩む5人の男女の葛藤を描いた直木賞作家朝井リョウの小説の映画化だ。

 検事として日々、犯罪と向き合う寺井啓喜(稲垣吾郎)の悩みは、不登校になった小学生の息子への教育方針が妻と食い違うこと。ユーチューブの動画に夢中な息子の将来に不安を感じている。

 ショッピングモールで働く夏月(新垣結衣)は、周囲に隠し通してきた自分の嗜好から、他人との関わりを避けていた。中学の元同級生、佐々木佳道(磯村勇斗)と再会し、同じ嗜好の持ち主と知り秘密を共有することになる。

 容姿へのコンプレックスから男性が苦手な大学生の八重子(東野絢香)は学園祭で、ミス・ミスターコンテストでなく多様性を認めるフェスの企画を通して、人気者であるのに心を閉ざしている男子学生、大也(佐藤寛太)の存在を知る。 

 年齢も境遇も全く違う男女5人の人生が、ある事件をきっかけに交錯してゆく。

 タイトルと同じ発音の「性欲」。彼らが持つ特殊な性的思考は、社会から次第に受け入れられつつあるものの、まだ否定されていると感じる人もいるだろう。

 登場人物をつなぐツールがSNSやユーチューブのネット社会だ。見えない相手に一喜一憂する姿に恐怖さえ覚える。異常とは、普通とは何か。「多様性」を認め合うことの大切さと難しさ。まるでパズルのピースのようにバラバラな時空列で書かれた原作を、一本の太いテーマでぶれることなく巧みに織り上げたのは、「ああ荒野」(2017年)や「前科者」(22年)で数多くの賞を受賞した岸善幸監督だ。社会と断絶することへの恐れ。つながることへの不安と承認欲求など、現代人が抱えるさまざまな感情を鋭く捉えた群像劇に衝撃と魅力を感じたそうだ。登場人物たちが普通でないと感じ苦しむ姿に胸をえぐられたという。

 先月開催された東京国際映画祭では最優秀監督賞を受賞したほか、観客賞も受賞している。

日本映画ペンクラブ会員、ライター


2023年11月18日号掲載

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