ハウ

=1時間58分

長野千石劇場(☎︎226・7665)で公開中。長野県推薦映画。

(C) 2022「ハウ」製作委員会

大切な飼い主の元へ 犬の出会いと別れ

 「ワン」と鳴けず、「ハウッ」とかすかな声しか出せないことから「ハウ」と名付けられた白い大型犬。映画「ハウ」は、ある偶然から長距離を歩くことになった「ハウ」の出会いと別れの物語だ。

 失恋で落ち込む不器用で生真面目な青年、民夫(田中圭)は、上司の勧めで、飼い主に捨てられた保護犬を引き取ることに。民夫は、人懐っこく賢いハウとの暮らしに次第に穏やかな日々を取り戻してゆくが、ある日突然ハウが姿を消してしまう。ボールを追いかけ乗り込んだトラックで、自宅のある横浜から遠く青森まで運ばれてしまったのだ。大好きな民夫と会うために、ハウは横浜を目指し798キロの道を歩き出す。

 「大切な人の元に帰りたい」。人間と強い絆で結ばれた動物の帰巣本能が生み出すドラマであるものの、ハウが東北の旅路で出会うのは、さまざまな理由で傷ついた人たちだ。

 東日本大震災から復興し始めた漁港や海岸線の風景。福島原発事故の風評被害でいじめに遭う中学生の少女。地方都市のさびれたシャッター商店街で暮らす孤独な老女(宮本信子)や、夫の暴力に苦しむ女性など、現代社会が抱える問題を映し出す。

 ほえることもなく、彼らの悲しみを癒やすかのように、静かに寄り添うハウを演じた「ベック」は、撮影当時まだ1歳4カ月。物語の主役として子犬から育てていったというだけに、俳優犬としてのナチュラルな演技力に驚かされる。それもそのはず、「南極物語」(1983年)をはじめ、「ハチ公物語」(1987年)、「犬と私の10の約束」(2008年)など、数多くの動物映画を手掛けたドッグトレーナー、宮忠臣の指導から生まれた名演技だ。

 これまでも犬や猫などの動物をテーマにした作品を生み出してきた犬童一心監督に、「神様からの贈り物」と言わしめたハウ。戦争やコロナなどの影響で疲弊した日常だからこそ、さりげなく優しい物語が胸に響く。女優の石田ゆり子がナレーションを務めている。

 人々を笑顔に変えながら、まるで天使のように真っ白な長い毛をなびかせて走るハウのモフモフ感が、犬好きにはたまらない。

日本映画ペンクラブ会員、ライター


2022年8月20日号掲載