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関心領域

=1時間45分

長野グランドシネマズ(☎︎050・6875・0139)で5月24日(金)から公開

(C)Two Wolves Films Limited,Extreme Emotions BIS Limited,Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023. All Rights Reserved.

強制収容所の隣で 幸せに暮らす家族

 多数のユダヤ人が死んでいく強制収容所の隣で幸せに暮らす家族がいた—。「関心領域」は、これまでのホロコースト映画とは異なる視点で描いた、英国の作家マーティン・エイミスの小説の映画化だ。

 第2次大戦中のポーランド・アウシュビッツ強制収容所。その隣にある瀟洒(しょうしゃ)な邸宅で暮らすのは、所長のルドルフ・ヘス(クリスティアン・フリーデル)一家だ。彼が心をくだくのは、いかに短期間に多くのユダヤ人犠牲者を出し、ベルリンに呼び戻されて出世するかだ。妻のヘートヴィヒ(ザンドラ・ヒュラー)は広大な庭園の造成に余念がない。壁越しに聞こえる悲鳴と銃声にも表情を変えることはない。無関心で都合の良いものしか見えないし聞こえないのだ。

 タイトルの「関心領域」とは、アウシュビッツ強制収容所を取り囲む40平方キロメートルの地域を表現するためにナチス親衛隊が使った言葉だ。ヘス一家は、戦時中にもかかわらず使用人を使い裕福で幸せそうに暮らしている。

 銃声や建物の煙突から立ち上る煙に覆われる空。壁の向こう側では何が行われているのか、観客が思い浮かべるのは銃殺と、遺体の焼却だ。手入れが行き届いた庭園の花々が美しく咲くのは、使用人がまく灰によるものだろうか。邸宅の裏を流れる川の水が灰で濁ることに不快感を表す彼らの身勝手さ。映像が美しいほど、見る者の心が不協和音に侵されてゆく。

 戦闘シーンも爆発もない。あるのは日常の風景。招待客や夫婦の会話からうかがい知るのは、ナチスの虐殺行為のおぞましさだ。これほどまでに静かに、ユダヤ人大量虐殺の残酷さ、恐ろしさを暴いた映画があっただろうか。

 ジョナサン・グレイザー監督が10年の歳月をかけて映画化に取り組み脚本も手掛けた。カンヌ国際映画祭グランプリ受賞をはじめ世界各国の映画祭で受賞。米アカデミー賞では5部門でノミネートされ、国際長編映画賞と、想像力を刺激した音響賞を受賞した。

 なぜ人類はジェノサイド、大量虐殺を止められないのか。今もなお戦争で多くの命が奪われている中、過去に学ぶべき一本である。

 日本映画ペンクラブ会員、ライター


2024年5月11日号掲載

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