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大名倒産

=2時間

長野ロキシー(☎︎232・3016)と長野グランドシネマズ(☎︎233・3415)で23日(金)から公開

(C)2023映画『大名倒産』製作委員会

突然貧乏藩の藩主に 立て直しに挑む青年

 立て直しか、それともお取りつぶしか。一国の命運は一人の若者の手に委ねられた。「大名倒産」は、「訳あり貧乏藩」を舞台にした浅田次郎の時代小説の映画化。原作とは一味違う、映画ならではのユニークな展開が面白い。

 江戸時代後期、越後丹生山(にぶやま)藩3万石の鮭(さけ)役人の子、間垣小四郎(神木隆之介)がある日突然、第13代藩主として迎えられた。12代藩主が急死。跡継ぎである弟の一人はうつけ者、もう一人は病弱者。そこで「腹違い」の弟である小四郎に白羽の矢が立ったのだ。

 丹生山藩の実態は、積もり積もった借金が25万両(およそ100億円)を抱えた貧乏藩だった。返済日が迫る中、隠居していた先代(11代藩主)の和泉守(佐藤浩市)が裏で画策していたのが「大名倒産」。幕府をだまして借金を踏み倒す前代未聞の企みだった。しかも責任を取らせて切腹させるために、鮭売りの青年を藩主にまつり上げたのだった。そうとは知らぬ小四郎は藩の存亡のために奔走する。

 これまでも「武士の家計簿」や「殿、利息でござる」「決算忠臣蔵」「超高速参勤交代」など、時代劇でありながら現代に通じる企業小説さながらの作品が映画化されている。

 銭勘定に疎く不浄のものとする武士と違い庶民の中で暮らしていた小四郎は、金のありがたさを知る青年。不要の武具だけでなく、家宝や屋敷も手放して節約し、金のかかる参勤交代も知恵と工夫で乗り切るアイデアの数々が見どころだ。

 悪徳商人や幕府の重鎮、実の父親までもが敵という中で、いかに財政再建を果たすことができるのか。お人好しで実直過ぎるきらいがあるものの、誠実な人柄で周囲の人々を動かしてゆく。

 監督は「老後の資金がありません!」の前田哲。共演は浅野忠信、宮崎あおい、杉咲花、松山ケンイチ、小日向文世、石橋蓮司、キムラ緑子ら演技派俳優たちがずらりと顔をそろえている。シリアスな演技ではなく、まるで喜劇役者たちの舞台を見ているかのようなユーモア全開の演技が笑いを誘う。親子の絆、人情などさまざまなスパイスをちりばめたコメディー映画だ。

日本映画ペンクラブ会員、ライター


2023年6月17日号掲載

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