アネット

=2時間20分

長野ロキシー(☎︎232・3016)で公開中

(C)2020 CG Cinema International / Theo Films / Tribus P Films International / ARTE France Cinema / UGC Images / DETAiLFILM / EUROSPACE / Scope Pictures / Wrong men / Rtbf (Televisions belge) / Piano

奇想天外な配役の ダークファンタジー

 「ポンヌフの恋人」(1991年)のレオス・カラックス監督が米国のベテラン兄弟バンド・スパークスとコラボしたミュージカル映画「アネット」は、奇妙な魅力を放つダークファンタジーだ。

 有名なソプラノ歌手アン(マリオン・コティヤール)と、攻撃的なステージで笑いを取るスタンダップ・コメディアンのヘンリー(アダム・ドライバー)の人気者同士の結婚は世間を大いに驚かせた。やがて2人の間には娘アネットが誕生し、親子3人の生活は幸せの絶頂にも見えたのだが、ヘンリーの人気が落ち目になると、次第に破滅へと向かってゆく。

 結婚・出産をしながらオペラの歌姫としてステージに立つ順調なアンに比べ、人気も仕事も失ったヘンリーは、愛から憎悪へと心の闇に捉われてしまう。嫉妬と猜(さい)疑心、欲望、怨霊の復讐(ふくしゅう)がわき起こり、まるでシェークスピアの悲劇のように、物語はダークな世界に塗り替えられていくのだった。 

 アネットを演じるのは、操り人形という奇想天外な配役。異質には違いないのだが、人形とは思えない存在感に引かれ、目が離せない。人形の担当は、日本の人形作家も含めてさまざまな試作が行われた結果、現場で操作可能という条件からフランスのチームが選ばれたという。日本の人形作家でなく、残念だ。

 せりふのほとんどは歌。しかも撮影現場でのライブ音源という、俳優たちにとって過酷な撮影だったそうだが、マリオン・コティヤール、アダム・ドライバーの歌唱力と演技力はさすがだ。そして、一瞬で観客をとりこにさせるアネットの歌声のなんと美しいことか。

 ロックオペラと称される本作の原案と音楽を手掛けたのが、結成からおよそ50年、今年はドキュメンタリー映画も公開されるバンド「スパークス」。オープニングシーンではカラックス監督親子とスパークスが登場し、物語の世界に誘う大役を務めている。

 本作は、昨年のカンヌ国際映画祭でオープニング作品として注目を集め、同映画祭で監督賞を受賞した。

日本映画ペンクラブ会員、ライター


2022年5月14日号掲載