43 保険文脈 「保険」の言葉で変わる選択

突然ですが質問です。次のどちらを選びますか。(1)「100%の可能性で千円を失う」(2)「1%の可能性で10万円を失うが、99%の可能性で何も損失が出ない」。

 確実に千円損失する(1)より、損失の確率が1%程度と低い(2)を選ぶ人が多いという結果が出ています。

 次の質問は前提があります。あなたが10万円のパソコンを買ったとします。それは1%の可能性で修理不能の故障を起こしますが、千円で損害賠償保険に入ると、もしもの故障の際に新品と交換してもらえます。さて次のどちらを選びますか。㈰「保険を掛ける」㈪「保険を掛けない」。この質問では㈰を選ぶ人が多くなります。

 ところが、よく考えると二つの質問は、(1)と㈰、(2)と㈪は内容が同じです。後の質問の㈰は、確実に保険料千円を支払わなくてはならないので、初めの質問の(1)同様に、あなたにとって千円の損失です。

 後の質問の㈪「保険を掛けない」は、初めの質問(2)における、「10万円を失う」1%か、「何も損失が出ない」99%か、そのどちらかの可能性(確率)にゆだねることと同じです。

 このように、「保険」という言葉の有無で選択が変わるのは、行動経済学における「保険文脈(保険文脈の心理)」の影響です。人間には、「保険料」=「確実な損失」であっても、「保険加入」を選択する心理が働くのです。

 日本人は、他国と比べて必要以上に保険に加入する傾向があり、保険好きといわれています。保険に入り過ぎてしまう理由の一つに、保険が醸し出す「相互扶助のイメージ」があると考えられます。保険会社の企業サイトでは、保険を「皆でお金を出し合い万一に備える、助け合いの相互扶助」などと表現しています。

 それは間違いではありませんが、保険会社が慈善事業の会社でないことを忘れてはいけません。保険会社は、加入者から預かった保険料から利益を得ており、さらに保険料をまとめて長期の投資運用をすることでも利益をあげています。保険の加入が「社会のため」と特別に考える必要はありません。

 皆さんは必要以上に保険に加入していませんか。保険商品を購入するときには、冷静で合理的・現実的な判断が求められます。

マーケティングコンサルタント


2021年5月29日号掲載