俳人の松本たかしは昭和5(1930)年に岐阜県中津川を訪れ、当時行われていた霞(かすみ)網猟を題材に連作五十四句を作りました。まだ霞網が禁止される以前で、小鳥を捕らえて食用に供する「小鳥狩」は秋の季語になっていました。
大霧の霽(は)れかゝるより小鳥狩 松本たかし
木曽谷の朝霧が晴れて、小鳥狩が始まります。
それぞれの座布団もつて鳥屋を見に 同
掛け小屋が鳥屋で、狩猟のプロが鳥屋師です。
磐石に乗つかけてあり小鳥小屋 同
その鳥屋は岩に乗せかけたような作りです。
杉葉もてもさと葺(ふ)いたり小鳥小屋 同
鳥から違和感ないように、杉葉で覆います。
蓆(むしろ)戸を上げて顔出す鳥屋の主 同
鳥屋の出入り口にはむしろが下げられています。
四段張にして十間の小鳥網 同
長さ20メートルほどの網が4段に張られているとは、大掛かりです。
網の面にかゝり輝く小鳥かな 同
あわれ、掛かった鳥は命の最後を輝きます。
小鳥焼く火も一ツ角に大炉かな 同
大きな炉をしつらえ、その場で焼いています。
鶸(ひわ)焼くや炉縁にならぶ皿小鉢 同
鶸や鶫(つぐみ)、雀(すずめ)などが掛かっていました。
酒沸いて小鳥焼けたり山は晴 同
食する人にとって、日本酒は欠かせません。
俳句は世界でも最短の詩だといわれていますが、このように連作として詠(うた)うことにより、その場の状況をつぶさに捉え、場面場面を臨場感あふれる描写で読者に伝えることができます。皆さんも何か興味を引かれる対象を見つけたら、ぜひ連作に挑んでみてください。
小鳥狩したるその夜の小句会 同
そして、さすがは俳人、やっぱり俳句会もいたしませんとね。
2022年1月22日号掲載