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35年目のラブレター

  • 3月15日
  • 読了時間: 2分

=2時間

長野千石劇場(☎︎226・7665)で公開中

(C)2025「35年目のラブレター」製作委員会

文字で感謝の思いを 実在夫婦の夫の決意

 戦後の過酷な境遇で学校に通えず、読み書きができないまま大人になった夫が定年退職を機にある決意をする—。「35年目のラブレター」は、実在する夫婦の、本当にあった話を映画化した感動的な物語だ。


 寿司職人の西畑保(重岡大毅)は、文字の読み書きができないことを妻の皎子(上白石萌音)に打ち明けられずにいた。ある日、ついに最愛の妻がそのことを知ってしまう。離婚も覚悟した保だったが、皎子は責めることなく寄り添うのだった。


 時は流れて保は定年退職を迎える。定年退職を機に、保(笑福亭鶴瓶)は支え続けてくれた皎子(原田知世)に感謝の手紙を書くことを決意し、65歳で夜間中学に入学する。担任の谷山(安田顕)先生や、共に学ぶ人々との出会いに励まされながら学び続けてゆく。


 この物語が素晴らしいのは実話であるということだ。言葉ではなく文字で感謝の思いを伝える。保にとって最大級の愛情の表現にほかならない。新聞で紹介された記事が反響を呼び、小説やテレビ、落語へと感動の輪が広がった。西畑夫婦のラブレターを呼んで感動した塚本連平監督が映画化を決意。青年時代と高齢になってからの異なる夫婦の配役が違和感なくすっと受け止められるのは、俳優たちが醸し出す人柄の温かさが重なるからだろうか。


 夫婦の絆と合わせて、もう一つ描かれるのは夜間中学の物語だ。生徒たちは年齢も国籍もさまざまだ。保と同じように学ぶ機会を失い、年を重ねてから改めて学校で学ぶことを決心した高齢者。社会に出て学業の大切さに気付き入学した若者。時代とともにいじめや精神的な問題など、いろんな理由を抱えた子どもたちも入学してくる。生徒たちをありのままに受け止める教師たちの情熱に頭が下がる。


 彼らの姿を見て感じるのは、人はやり直そうと決意したときに人生を変えるチャンスがあるということだ。


 愛する妻に感謝のラブレターを届けたい。65歳で文字を学び始めた保が一文字一文字に悪戦苦闘する姿に、夫婦の歩んできた珠玉の人生が垣間見える。互いを思いやる夫婦の姿にいつしか心が温かくなる。

 (日本映画ペンクラブ会員、ライター)


2025年3月15日号掲載

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