34 晩秋から冬へ


 信濃の国の冬は厳しいものです。来たる冬に備えて、冬支度を整えねばなりません。「冬支度」という言葉には「冬」の語が含まれていますが、その意味からして、秋の季語になっています。


逃げてゆく刻を追ひつつ冬支度    大橋敦子


 日も短くなり、何をするにも急(せ)かされる思いの募る晩秋の候です。


省るひと日を持ちぬ冬支度      宇咲冬男


 それでも、せかせかと作業をするだけでなく、心の内を顧みる余裕を持ちたいものです。

 従来の日本家屋では、障子や襖(ふすま)という建具が重要でした。その障子を洗って元の紙を剝がし、新しい紙を貼ってゆく作業。また襖も、破れたところは繕う作業。あるいは夏の間外してあった襖をもう一度立てて入れる作業。具体的なこれらの作業もまた、晩秋の季語になっています。


みづうみに四五枚洗ふ障子かな  大峯あきら


 湖の端を借りて、そこで障子を洗う作業を行うとは、昔ながらの暮らしの知恵でしょう。


水の如きしづけさ湧きつ障子貼る  馬場移公子(いくこ)


 家人は留守なのでしょうか。しんと静まりかえった家内にて障子を貼っていく作業をしていると、おのずから心の中も澄みとおってゆくようです。


香焚いて香のとどまる襖入れ    及川 貞


 襖を入れる際にお香を焚(た)くとは、何とも心ゆかしい風情があります。

 そして徐々に本格的な冬の到来となります。


柔かき障子明りに観世音      富安風生


 障子越しの明かりの中におわします観音像。一冬を無事に過ごせるよう、祈りたくなります。


芭蕉像に夜は襖を隔て臥す    阿部みどり女


 旅宿でしょうか。芭蕉にゆかりの地域では芭蕉像が飾ってあります。一夜、その隣室に宿泊することになれば、夢に芭蕉を見るかもしれません。


2021年11月20日号掲載