今年、「中秋の名月」は9月21日でした。その約1カ月後、もう一回お月見をする夜があります。それが「十三夜」、陰暦の長月十三夜の月を愛(め)でる風習で、今年は10月18日です。少し欠けた月を祀(まつ)るのも風情のあることです。この十三夜の別名を「後(のち)の月」といいます。
十三夜ほろびしものを思ふ日ぞ 山田みづえ
思はざる山より出でし後の月 福田甲子雄
秋の季語で、ほかにも「後の」のつく言葉に「後の雛(ひな)」「後の更衣(ころもがえ)」「後の彼岸」などがあります。3月の雛祭りに対して9月9日に雛人形を祭るのが「後の雛」。6月1日の更衣に対して10月1日から秋冬の服装に変わるのが「後の更衣」。3月の春分の日に対して9月の秋分の日が「後の彼岸」です。いずれも、春夏とペアになっている秋の行事ということです。
後の雛うしろ姿ぞ見られける 泉 鏡花
ひつそりと朝きて後の更衣 伊藤通明
人は灯をかこみて後の彼岸かな 三田きえ子
また、特殊な季語として「西(にし)の虚子忌」なるものがあります。俳人高浜虚子は1959(昭和34)年4月8日に亡くなったので、4月8日が「虚子忌」です。ところが亡くなった年の10月14日、比叡山に分骨され、それ以後毎年、この日に比叡山で法要が行われるようになりました。62(昭和37)年のこの法要時に、虚子の娘の星野立子が、
この後は西の虚子忌と申さばや 星野立子
という句を作ります。それ以後、この法要の日が「西の虚子忌」と呼ばれるようになり、虚子の主宰した「ホトトギス」では立派な季語として詠み続けられています。ちなみに分骨された10月14日は十三夜の日だったとのこと。まこと、よくできた話です。
西へ往(ゆ)くすなはち西の虚子忌かな 坊城俊樹
2021年10月16日号掲載
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