29 負のスパイラル

税務調査や社員の独立…悩み絶えず眠れない日々

アルファグループとロハスビューティーグループ(SALIDA・RITA・AC+S・SORA・HANA)によるヘア・コンペ(昨年11月)

 地獄の日々—。いま振り返ってもそうとしか表現できない毎日が始まったのは、東京・世田谷に2店目を開店した翌年の2005年のことでした。南千歳のAHA(アルファ・ヘア・アカデミー)で営業前に指導していると「大変です」と会社の経理担当職員が駆け込んできました。職員の隣には見知らぬ男性がおり、私に国税局(当時)職員の身分証と令状を示して言いました。「これから一斉に調査します。よろしいですか」

 「脱税を疑われているのか」と驚いた私は訳も分からず、会社の会計をお願いしている公認会計士の先生に電話をかけました。先生からは「何も問題はないので調べてもらってください」と言われたので、調査を了承しました。午前9時、自宅と長野6店舗、東京2店舗の全店舗に一斉に調査が入りました。こうして、約半年に及ぶ国税局の調査が始まりました。

 動揺していたのでこの辺りの記憶は非常にあいまいです。ただ、女性職員が「社長、何かしたんですか」と泣き出した姿と、昔見た映画「マルサの女」のシーンを思い出したことは生々しく覚えています。

 調査は、対応は丁寧でしたが私には過酷でした。接客の合間に店と事務所を行ったり来たりして調査に応じました。同じ質問に何度も答えていると「気付かないうちに俺は何かしていたのではないか」と疑念がわき、不安でつぶされそうでした。「必死で働いて税金を納め、社会の役に立ってきたつもりなのに、なぜ」という思いもありました。

 自宅からは結婚前に妻に送り続けたはがきさえ持って行かれました。それでも妻は「調査の人も仕事で調べているのだから仕方ないよ。何も悪いことはしてないから大丈夫よ」と私を励まし続けてくれました。妻がいなければ、私はあの時壊れていたかもしれません。

 約半年後、調査終了を告げられました。何も指摘されずに終わったので、問題はなかったと理解してよいのだと思います。この話を人にできるようになったのは、最近のことです。それほど私には精神的な打撃となった出来事でした。

 しかし、地獄は続きました。東京に進出して以降、週の半々を東京と長野で過ごしていた私はすでに心身ともにボロボロでした。仕事中に倒れて意識を失うことが何度もありました。検査でも原因は分からず常に不安を抱えていました。

 2009年には「ALPHA吉祥寺店」が開店しましたが、東京3店は厳しい経営が続いていました。さらに長野のALPHAにも変化が生じていました。一枚岩だった社員の結束が崩れ始めていたのです。「俺がいない間の長野は任せたぞ」と頼りにしていたベテラン社員が、相次いで独立の意向を示し始めました。

 出口が見えない負のスパイラルに、悩みが絶えず眠れない日が続きました。しかし、私は妻以外に苦しさを見せませんでした。社員を不安にさせてはいけないという思いと、私なりの意地とプライドがあったからです。私にとどめを刺したのは、2011年3月11日の東日本大震災でした。

聞き書き・村沢由佳


2022年4月9日掲載