28 絶頂期

念願かない表参道に出店 海外で仕事の機会増える

 有名美容室がひしめく東京の原宿・青山エリアに「ALPHA表参道店」をオープンしたのは2001年、独立から20年の節目でした。原宿は、私が美容師として大きく成長させてもらった思い入れの深い地。20年前は家賃の高さから諦めましたが、「いつかまた原宿で」という思いは私の中で静かに燃え続けていました。念願がかない新たな挑戦に燃えていた私は、この東京進出が地獄の入り口になるとは知る由もありませんでした。

 私の経験上、原宿・青山エリアに通うお客さまはぜいたくで、わがままで、厳しい。ここで成功するためには高い技術とデザイン力があるのは当たり前。その上で、お客さまの気持ちに強く訴える魅力的な個性が必要だと考えました。

 私がALPHAと自分の個性として出した答えは「アート」でした。私が美容以外に興味を持ち続けたのは建築と美術です。建築は立派な祖父の家への憧れから、美術は見習い時代のお客さまに「美術・芸術も学びなさい」「本物を見る目を養いなさい」と教えられたことから、若い時から原宿の古本屋で海外の建築や美術の本を眺め、国内外の有名な建築物や美術館にも足を運んできました。デザイナーでもある美容師はアーティストにも通じる仕事です。社員が常にアートを感じられる環境に身を置くことで感性や柔軟な発想力を高め、デザインやクリエーティブな力を発揮できると考えました。

 1億円以上かけた店はスケルトンの柱や壁、アルミの床などを施しソリッド(硬質)な空間に仕上げました。また若い芸術家たちに声をかけて、3カ月ごとに店内にオブジェや版画などの作品を展示し、若い芸術家と美容師、お客さまが交流できるパーティーを開いて刺激を与え合う場も提供。こうした取り組みや地方の美容室が激戦区に挑戦したことは、多くのメディアで紹介されました。

 さらに東京進出以降、仕事の場が広がりました。シンガポールはじめ国内外のヘアショーに招待され、大きなステージに立つ機会が増えました。2003年には世界的なヘアケアメーカー「ウエラ」が世界中に配布するカレンダー用ポスター作成メンバーに抜てきされ、ベルギー・アントワープの巨大倉庫で1週間かけて行われた撮影会に参加。世界から集まった美容師7人の中で日本人は私だけでした。ファッション誌「ヴォーグ」のトップカメラマンが撮影するなど大変レベルの高い刺激的な現場でした。この時の作品は、縦4メートル・横3メートルのポスターとなり、パリのルーブル美術館のロビーに展示されたそうです。美容師として大変栄誉な出来事でした。

 表参道の3年後には、世田谷区に「ALPHA三軒茶屋店」をオープン。この頃の私は、周囲の人の目には美容師としても経営者としても順風満帆に見えていたと思います。しかし、私は知らない間に地獄に足を踏み入れていました。それは、ALPHAの経理担当職員の一言から始まりました。

聞き書き・村沢由佳


2022年4月2日号掲載