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27 ギャラリー展 

オーナーらとの信頼関係 作家たちの独特の雰囲気

始弘画廊から見えるパティオの緑

 ギャラリーで定期的に企画展を開いてもらえることは作家としてとてもありがたいことです。大学を卒業して発表活動をスタートしてから、いくつものギャラリーで展示してきました。

 1週間単位で代金を支払って借りるかたちからスタートし、半額で貸してもらうケースなども経て、ギャラリーの企画で、料金を支払わずに個展を開催できるようになりました。思い出すのは神田にある真木画廊です。現代アートの草分けのようなギャラリーで、学生から有名な作家までがさまざまに、実験的な作品をその場で制作し、時には画廊の外の道路でパフォーマンスが行われました。

 オーナーの山岸信郎さんは、学生などの若い作家には支払いを分割したり先延ばしたりするなどの対応をして育てようとされていました。控え室では、作家たちがお酒を飲んで激論を交わしていたものです。山岸さんは既に亡くなりましたが、私も何度かお借りして個展をさせていただきました。当時そこに集まっていた作家たちの独特の雰囲気は忘れられません。

 その後、銀座、青山、京橋、四谷といくつかのギャラリーで企画展をさせていただきました。2009年から現在に至るまで、南青山の始弘画廊で毎年個展を開催しています。オーナーは平山幹子さんという女性で、長野市での石川利江さんとの信頼関係のように、長年の個展開催の中で平山さんとも代えがたい信頼関係ができました。

 始弘画廊は地下1階、地上3階の始弘ビルの地下の一角にあり、ビルには芸能人が通うような美容院が2店舗、高級子ども服や家具店などいくつかの店舗が入っています。にぎわう道路から階段を下りると、アイビーやアジサイの緑に囲まれたパティオがあり、そこに立つと街の喧噪とは別世界のような空間で、ギャラリーの中からはガラス越しにその庭を臨めるという、すてきな造りです。

 昨年開催された静岡県伊東市の別荘地エリアにある「池田20世紀美術館」での個展は、平山さんの推薦が開催につながりました。


池田20世紀美術館の展示会場の一部

 池田20世紀美術館は企画展を決める選考委員会があり、選考委員の一人が岡本太郎美術館の館長を務めている土方明司さんで、平山さんと深い信頼関係がありました。土方さんも以前から私の作品を見てくださっていたので、平山さんの働きかけがきっかけで推薦に至り、選考委員会も通り、個展が実現しました。

 ルノアール、ピカソ、シャガール、ダリ、そのほかきら星のような20世紀の巨匠の作品コレクションがある美術館で、それらの作品は上の階に展示してあり、企画展は下の階に展示されます。過去には名だたる作家の個展が開催されてきました。そんな美術館で私の個展を企画していただけるのは大変名誉なことであり、階は違えども巨匠の作品と同じ美術館に展示されることは素晴らしいことでした。

 作品集も作っていただいたので、それも含めて開催に際しての準備は今まで経験したことのない大変さがありましたが、それまで全く縁がなかった評論家やお客さまにも作品を見ていただき、芸大時代の仲間たちも見に来てくれました。私の代表作である大作を多数まとめて展示でき、作家仲間たちに私の表現してきた世界を認識してもらうことができて、自分の作家活動の中でも大きな成果となりました。

 夏休みを挟むほぼ3カ月間という長期間の展示で、何度かのイベントもあり、夏休みに地元の子どもたちが美術館で作品からイメージした絵を描くイベントも企画されていて、明らかに私の作品をきっかけに生まれた数々の絵を目にするという、とてもうれしい体験もしました。

 一方で、一生懸命頑張ってきたとはいえ、並み居る巨匠たちと比べ、今の自分はまだまだだ、この個展開催は現状に満足することなくもっと前進せよというメッセージのようにも感じました。

 聞き書き・松井明子


2023年12月9日号掲載

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