米国人向けに商品を開発 日本の素晴らしさを伝える
2017年4月、米国オレゴン州の食品加工工場を取得し、サンクゼールの米国法人「St.Cousair,Inc」を設立しました。社長は次男の直樹が務めています。
米国進出の1年半ほど前から、直樹は妻のミンツーさんとサンフランシスコに住み、西海岸のカリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州を中心に人脈をつくって情報収集し、サンフランシスコやシカゴの食品展示会でマーケット調査を兼ねて商品のテスト販売を行いました。
拠点場所を検討する中で、オレゴン州はブルーベリーなどのベリー類やヘーゼルナッツ、リンゴなど、さまざまな農作物がオーガニックで栽培され、食品加工業も盛んで、米国主要マーケットである西海岸の中心にあり、魅力を感じました。ご縁もあり、州最大の都市ポートランドに近いニューバーグ市近郊にある工場のオーナー夫妻に出会い、後継者がいなかったことから広い敷地と食品加工工場を私たちに譲っていただくことができました(敷地12万平方メートル、工場3300平方メートル)。
サンクゼールの米国進出にオレゴン州のケイト・ブラウン知事(現職)も大変喜んでくれました。今も交流を続けており、州政府関係者15人ほどが飯綱の本社を訪問した時は峯村町長も参加してくださいました。
米国では、白人層やアジア人層を含め健康や食への意識が高い米国人をターゲットにブランディングやマーケティングを行い、日本の食文化に詳しくない米国人の心にも刺さるよう心掛けています。
直樹は、米国の大学留学時に寿司(すし)屋でアルバイトをしていました。その寿司屋は、米国人をターゲットにメニューをアメリカナイズさせ大繁盛していました。一方で日本人相手の日本食レストランが、顧客が定着せずに閉店していくのを多く見てきたことから、「米国で商売をするなら米国人をターゲットにしよう」と方向性を決めました。
パッケージデザインの工夫はもちろんですが、日本食としてだけでなく、パスタやバーベキューなど西洋人が楽しめる食べ方を提案しています。そうすることで、長期的に商売に広がりが出て、また海外の人に日本の素晴らしさを伝えるという本質的な意義があると考えています。
米国で開発、製造している「Yuzu Misoソース」は、米国でヒット商品になっています。日本で製造している万能だし(Traditional Umami Dashi)はだしとしてだけでなく、パスタやフライドポテトなどにも調味料として使える人気商品です。
米国でコロナ禍が広がった昨年3月、余っているマスクや手指の消毒液を分けてほしいと、オレゴン州政府から要請がありました。直樹は即決して消毒液の製造特別免許を取得し、当社工場で製造を始めました。小売店では消毒液が品切れ状態でしたが、病院、市や郡などに数千本を寄付。このことに州政府が感謝し、その後、大量の消毒液を購入してくれました。地域の人たちに感謝され、やっと受け入れられたと感じる出来事でした。信頼が高まり、米国内での売り上げも大幅に伸びていきました。
創業当初は赤字でしたが、3年目から黒字になり、5年目になる今年も順調に黒字幅が増えています。現在、米国内での流通は1000店目前です。また、国土が広い米国ではインターネット販売が有効なので力を入れており、大きな手応えを感じています。
直樹には入社以来、中国事業も含め難しい新規事業や問題を抱える部門の立て直しなどを任せてきました。これまでの経験を糧にたくましく成長し、米国をはじめとするグローバル事業を牽引してくれています。
聞き書き・松井明子
2021年8月21日号掲載