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25 注文の多い美容室

「黄金比」重視 カットは月1 心も変えていく美容の力

開店5年目、ロンドンの「海外撮影会」で、モデルと私(左)

 オープンから半年、店の評判が広がり始めたことで、私のやる気も加速しました。

 「長野の美容界を変える」。この目標のため、私は自分の美容への考えを技術や言葉を通して積極的にお客さまに伝えました。

 例えばカットは、「月に1度は来てください」とお願いしました。

 人がものを見たとき、最も美しいと感じる縦横の比率を表す「黄金比」という言葉があります。建築やデザインの世界でよく使われる言葉ですが、美容師もこの黄金比を使います。その人の頭の骨格や髪質を把握したうえで顔を十字に切り、黄金比に従ってトップの高さやボリューム、前髪のバランスなどを考えて、360度どこから見てもその人が一番美しく見えるデザインを作り上げていくのです。

 人の髪は1カ月に1・2〜1・3センチほど伸びます。1カ月を過ぎると後頭部のボリュームが下がるなどデザインのクオリティーはどんどん落ちていきます。お客さまの黄金比が乱れることを放っておくのはプロとして失格。私は「伸びたら」ではなく、はっきり「月に1度来てください」と言わないといけないと考えます。

 また、当時は「パーマやカラーはぜいたく」「カラーは白髪の人がやるもの」という考えが主流でした。

 私が追求するデザインはカット、パーマ、カラーが三位一体で、どれもが必要不可欠です。その人が美しく見えるよう計算し尽くしたカットをし、髪に動きと軽やかさを持たせるためにパーマをかけ、艶と明るさを出すためにカラーをする。ただ髪を切りそろえるだけではなく、艶やかさや動きが備わって初めて美しいデザインが完成するのです。

 この考えは店の料金にも反映させました。当時、長野ではカットとシャンプーは別料金にしている店がほとんどでしたが、髪質や骨格を知るためシャンプーは欠かせないのでALPHAのカットはシャンプー込みでした。そのためカット料金は他店と比べて2割高くしましたが、その代わりパーマとカラーはもっと気軽に試してもらえるようにと2割安く設定しました。

 また、髪がとても傷んでいるのにさらにパーマを希望する人には健康な髪を取り戻す大切さを説明し、デザイン以前に一度パーマを取って元の状態に戻してケアを始めるよう勧めました。

 こうした私のこだわりに「注文の多い美容室だ」と感じるお客さまがいたかもしれません。しかし、その人の美しさを引き出すヘアデザインは、印象や外見を変えるだけではありません。「きれいになれた」「変身できた」といった、目に見えない気持ちや心の部分まで明るく変えていく力があると、私は思うのです。

 それを実感してくれたお客さまの口コミや紹介のおかげで来店客はさらに伸び、3年後に2号店、5年後には3号店と出店が続いていきます。ALPHAが大きく前進していく原動力となったのは、「スパルタ教育」とも言われた私の指導に耐え、大きく成長してくれた社員たちの存在でした。

 聞き書き・村沢由佳


2022年3月12日号掲載

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