23 1号店オープン

理想詰め込み7人で出発 完全予約制も客数少なく

開店当初の店内で、社員と私(前列中央)

 1981(昭和56)年3月、南千歳に「SALON `d ALPHA(サロン・ドゥ・アルファ)」がオープンしました。美容師として、経営者として、私の新しい挑戦がここから始まりました。

 店名はギリシャ語の第1字母「α」に由来します。「最初」「一番」「未知数」などの意味があり、この場所から大きく広がっていけるようにという願いを込めました。

 店のコンセプトは「長野にはない美容室(サロン)」「高級感と特別感」で、「もう二度とあんな店は出せない」と思うほど私の理想を詰め込んだ店でした。

 店はビル2階の35坪。らせん階段を上がると薄紫色のじゅうたんが広がる店内へ。パリやロンドンの「巨匠」と呼ばれた美容師が経営するサロンや現地の高級ホテルを参考に、内装は上品で落ち着いた雰囲気にしました。彫刻を置き、BGMにクラシックを流しました。

 12席分の広さがありましたが、ゆとりをもたせるため6席のみ。鏡はすべて三面鏡です。開店直前まで勤めていた原宿の店には、一番大きな鏡の前に「杉山一真の椅子」と呼ばれた私の顧客専用の席があり、「特別感がある」と好評でした。ALPHAのお客さまには全員に特別感を感じてもらいたい。そんな思いから、お客さまが座る直前に椅子に掛けた白いクロスをさっと取って三面鏡を開くという演出をしました。

 私と妻、原宿店から私に付いてきてくれた男性美容師、県内の美容学校を卒業したばかりの女性たちの合計7人での出発でした。女性は白いブラウスとスカートにパンプス、男性はちょうネクタイにジャケットを制服とし、喫茶店と間違えられることもありました。

 市内の美容室ではおそらく初めて完全予約制も採用。「予約が必要なんて歯医者みたい」と言われましたが、他店と差別化を図りました。

 原宿で「予約が取れない美容師」と呼ばれていた経験もあり、私には自信がありました。しかし出鼻はあっさりくじかれました。お客さまが来なかったのです。原宿では一日100人以上の来店客があったのに長野では4人の日もありました。これほどお客さまが少ない店は、美容師になって初めての経験でした。それが自分の店とは—。自信やプライドどころではありません。

 焦る私の頭を占めたのは「社員を不安にさせてはいけない、社員の生活は絶対に守らなければいけない」という一点でした。経営とは社員に対して重大な責任を持つことなのだと、その重みを心底感じました。

 開店時の体験は私の中に強烈な記憶として刻まれました。この後、ALPHAは最盛期には全店舗合計で一カ月5千人以上の集客を達成するまでに成長します。しかし40年たった今でも、私は時々お客さまが一人も来なくなる夢を見てうなされることがあります。

 幸い我慢の時期は3カ月ほどで過ぎ去り、お客さまは徐々に増え始めました。しかし経営の厳しさの洗礼は続きます。一息つく間もなく、新たな難題に直面しました。

聞き書き・村沢由佳


2022年2月26日掲載