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23 欧州が身近に

何度も蘭・仏・独の美術館へ 日本の美意識を再認識

アムステルダムの花屋

 海外研修先にオランダを選んだ一番大きな理由は、研修先の施設などの受け入れ承諾書をもらうためのコネクションがオランダしかなかったことです。フェルメールやゴッホを生み出したオランダには独特の光があるということや、私のモチーフである花の国でもあるという点には興味がありましたが、とにかくヨーロッパに長期滞在したいので、極端に言えばどこの国でも良いというのが本音でした。

 そんな理由で選んだオランダでしたが、滞在してみて私はすっかりオランダに魅せられました。アムステルダムは古い建物が多く残り、オランダでも独特の街並みなのですが、多様性のある活気に満ちた都市で、さまざまな人種や宗教の人が住み、男性同士、女性同士のカップルを至る所で見かけました。当時はミュージアムカードを購入すると1年間、オランダ各地の有名な美術館にそのカードで何度でも入場できました。例えば、ハーグにある美術館で、有名なフェルメールの「真珠の耳飾りの少女」を見るために、カードを使い滞在中に何度も行きました。

 アムステルダムからは特急電車を使うと数時間でフランスやドイツに行くことができ、各地の素晴らしい美術館を巡って、歴史的名作や最新の現代アートの数々にふれることができました。オランダの美術学校やアーティストのスタジオを見学して、どのように活動しているかを知りました。

 地方都市でも、街中の教会などの施設で現代音楽のコンサートやパフォーマンスが行われるなど、一般の人が芸術を日常の中で楽しんでいる様子が印象的でした。花がとても安いことも驚きでした。チューリップなどは、1、2本単位などではなく、50本くらいの束で売られています。すてきな花屋さんがたくさんあり、店先にはボリュームのあるブーケがたくさん並べられ最初はとても新鮮でしたが、いつも間にか、それが日常の光景になってきます。

 日本に帰る直前に、ライデンという都市にある「日本博物館シーボルトハウス」を訪れると、日本の生け花が飾ってありました。ヨーロッパの花の飾り方にすっかり慣れていた私の目には、その生け花がとても新鮮に見え、余白を生かした洗練された美しさに圧倒されました。帰国直前にライデンで出合った生け花で、日本の美意識を再認識させられました。

 2006年のオランダでの滞在経験で、すっかりヨーロッパが身近に感じられるようになり、滞在先として高橋さんのアパートをお借りできることもあって、それから5年ほどの間は毎年、オランダに1、2カ月の長期滞在をするようになりました。

 箏奏者の後藤真起子さんと友人になり、真起子さんを訪ねるのも恒例になりました。真起子さんのコンサートに一緒に付いてドイツに行き、ある時は、パリのルーブル美術館内の会場でのコンサートに真起子さんが出演するというので招待してもらいました。真起子さんのおかげで音楽家たちと出会い、そういう視点からヨーロッパの文化状況を知ることができました。

 毎年高橋さんの部屋をお借りして長期滞在していたオランダでしたが、研修から5年目くらいに、高橋さんの娘さんがその部屋に住むことになったため、借りることができなくなりました。それからは費用の問題で1、2カ月というわけにはいかなくなり、それでもコロナ禍前の2019年までは毎年2週間ほどヨーロッパ各地を訪れました。

 聞き書き・松井明子


2023年11月11日号掲載

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