23 中国で事業投資

「対等な仕事を」理解されず 経営理念守り撤退決める

口コミで大繁盛した上海のサンクゼールジェラートショップ

 2009年ごろ、中国からの留学生シェイピンさんと出会いました。シェイピンさんの親族は、上海の南にある都市・寧波(ニンポー)で食品工場を経営していました。シェイピンさんとの出会いを機に、かねてから発展ぶりに注目していた中国で商機を見いだそうと、10年に「聖久世寧波商貿有限公司」を設立。次男の直樹が総経理(社長)で、サンクゼール軽井沢店のアルバイトを経て現在は海外部門の副社長で中国出身のリュウゲツさんとの2人に事業を任せました。翌11年、シェイピンさんらの紹介で寧波のショッピングモールに1号店をオープンしました。

 店は、物販と飲食の複合店で、サンクゼールの商品(ジャムやワイン、パスタソースなど)を日本から輸入・販売し、飲食は、たい焼きやお好み焼き、ソフトクリームを出しました。ソフトクリームは当時の中国でブームになり、至る所で売られていたので差別化を図ろうと、中国ではまだ珍しかった果実で作るジェラートの製造販売を始めました。青果店から配達された生のフルーツを使用し、店頭の製造機で作るジェラートは評判になりました。

 東日本大震災の原発事故の影響による輸入規制で、物販を扱う店はすぐに撤退しましたが、ジェラートをメインにした店舗展開にシフトして乗り切りました。寧波に3店舗、上海に3店舗、四川省に5店舗開業しました。

 そのうち四川省で日本企業の商業施設にオープンした店舗もヒット。企業から高く評価してもらい、新たに、同企業の商業施設10カ所に納品する「セントラルキッチン」事業への投資と運営について依頼を受けました。セントラルキッチンは、各店舗の地下食品売り場で販売する大量の総菜やサラダを1カ所で調理する施設で、各店舗で作るよりもコストを抑えられます。年間売上高10億円以上の商談でした。

 工場団地内に借りた2階建ての建屋にセントラルキッチンを造る改修工事を進めていた時、直樹から相談を受けました。

 先方企業の担当部長から、飲み会の席で高圧的な態度をとられている上、肝心の昼間はなかなか会ってもらえず、大事な話を進められない。フェアな対応ではないし、工事が進んでいるのに不安な状況だ。私たちは、業者を大事にする同企業創業者を尊敬しているが、担当部長の行動はその理念から逸脱している。今後日本から派遣されて来るメンバーたちに、慣れない言葉や文化の中で自分たちと同じ思いをさせたくない―ということでした。

 このままではサンクゼールが社運をかけることができない。対等の関係で、貢献に値するやりがいが持てないのであれば事業は中止すべきだと、私たちは話し合いました。

 早速、先方企業の日本人総経理と担当部長に会い、「担当部長の対応にスタッフが傷ついている。このままでは対等な仕事ができないし、成功がおぼつかないので担当部長を代えてほしい」と訴えましたが、総経理からは「言いたいことは分かるが、代えることはできない」とかわされました。丸2日間話し合いましたが理解してもらえず、3日目の朝、「私の責任で、全店クローズし、中国からは全て撤退する」と先方に伝えました。

 2012年、投資して間もない撤退で大きな損失でしたが、「人と人は対等であって、お互いリスペクトしながら仕事をしよう」という経営理念を守り、直樹とリュウさんという大切なスタッフを守ることには代えられませんでした。この出来事があったから、後の新事業「久世福商店」や米国での成功につながったと思います。

聞き書き・松井明子


2021年7月24日号掲載