鎌倉の古刹の絵に登場 10枚を納品 ご縁が広がる
神奈川県鎌倉市にある長谷寺は奈良時代に開創された古刹です。その住職が奥さまと一緒に小布施町の「おぶせ藤岡牧夫美術館」を訪ねてきたのは2015年ごろでした。その時、私は不在でしたが、「長谷寺の絵を藤岡さんに描いてもらえないか」と伝言を残していきました。後日、改めて美術館に来られた住職は私に「境内に咲く花と共に歴史ある長谷寺の絵を描いてほしい。まだ誰も描いたことのないような世界を描いてほしい」と言いました。
その依頼を受けた私はまず現地に行きました。長谷寺は思っていたほど大きくなく、1時間もあればだいたい見終わりました。私は、花を前面にして、その奥に長谷寺の建物を描き、そこで子ども忍者が忍術を使って遊んでいるという構想を提案しました。長谷寺に忍者は全くゆかりはありませんが、忍者が登場する私の創作ファンタジーを住職が気に入ってくれたのです。
長谷寺は、境内入り口の山門や池、地蔵、本堂などがあって、ボタンやシャクヤク、アジサイなどが美しく咲いています。そこで子ども忍者が遊ぶ様子を鉛筆でスケッチして住職に見せたところ「面白いですね」と喜んでもらい、絵の方向性が決まりました。
本格的に描く前に入念な取材をしました。花が美しい時季になると、朝長野市を出発し3時間ほどかけて長谷寺に行きデッサンをしました。花の咲き具合はその年の気候などで変わるため、過去の写真も借りて参考にしました。
山門は住職が特に気に入っている場所で、納品した絵の1枚に採用しました。子どもの頃によく山門の近くで遊び、たくさんの思い出が詰まっている場所だそうです。山門の前の木の上で赤や黄色などさまざまな色の服を着た10人以上の子ども忍者が遊んでいるという、住職の幼少期の思い出を連想させる絵にしました。
私が一番気に入っているのは本堂を描いた絵です。本堂の前に桜の木があり、その上に黒い子ども忍者が数人乗っています。そのうちの一人が縄を頭上の三日月に引っ掛け、また別の一人がその縄を伝って月まで行こうとしている様子を描きました。
F30号(910ミリ×727ミリ)の10枚の絵を納品しました。
絵を通じたご縁があったおかげで、2019年の長谷寺の節分イベントに「豆をまく役」の一人として招待されました。相撲の高砂部屋の親方やお弟子さん、テニスの杉山愛選手、タレントのマリ・クリスティーヌさんもいました。イベント後のパーティーで、著名人と握手をしたり、一緒に写真を撮ってもらったりしたのは良い思い出です。イラストレーターを続けていたからこそ、体験できたのだと思いました。
私の描いた絵はいろいろな人とのご縁を広げてくれるといつも思っています。長谷寺の絵の仕事も、住職が私の絵を見て気に入ってくれたからこそ実現しました。絵には描いた人の「個性」が出ます。おそらく見る人は私の個性を感じ取って、絵を気に入ってくれるのではないでしょうか。また、この個性は神様がくれたものだと思っています。スポンサーのことをあまり気にせず、適度に自己表現のできる絵の仕事は、私にとってかけがえのないものです。
長い歴史のある長谷寺で、私の絵も訪れる人々に末永く愛されるといいなと願うばかりです。
(聞き書き・広石健悟)
2024年12月14日号掲載