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22 オランダ滞在100日間

到着日に味わった幸福感 長年の支援に大きな感謝

滞在した5階の部屋の窓から。連なる屋根の先にはアムステルダムの中心であるダム広場がある

 多摩美術大学の教授で美術評論家の中村隆夫さんが私の作品を高く評価し、新聞や雑誌で展覧会のレビューを書いてくださいました。毎回欠かさず展覧会を見てくださり、2003年、東京のギャラリー「アートスペース羅針盤」での個展を終えた後、中村さんから連絡をいただきました。当時、中村さんは文化庁が行っていた優秀美術作品の買い上げ事業の選考委員を務めており、「小山さんの作品を推薦するが良いか」と言うのです。羅針盤での個展で展示した「種子の秘密」を推薦していただき、その後の審査で正式に買い上げが決まりました。翌年3月、「種子の秘密」は上野にある日本芸術院会館での「平成15年度文化庁買上優秀美術作品披露展」で展示されました。ようやく美術の世界で形に残る評価をいただくことができ、それまで応援してくださった人たちにも喜んでいただけることがうれしかったです。

 そして、2006年には、同じく中村さんの推薦をいただき、選考を経て、文化庁の海外研修制度で9月1日から100日間オランダに滞在することができました。個人旅行で、パリ、ロンドン、ミラノなどのヨーロッパ各地に行ったことはありましたが、文化庁の支援で1カ所に100日間も滞在できるという大変貴重な時間をいただき、アムステルダムにある日本人フルート奏者の高橋真知子さんの住まいに滞在しました。

 その部屋はアムステルダムの駅から歩いて十数分の観光の中心地にあり、古い建物の入り口から幅の狭い階段を何十段も上っていく最上階の5階と6階がつながった部屋でした。オランダの古い建物は、住まいのスペースを広く取るために、階段は最小限の面積で設計されているのです。当時、沖縄の琉球大学で教えていた高橋さんは不在の間住まいを貸し出していて、知り合いの紹介で高橋さんとつながることができたのは幸運でした。

 若い頃からヨーロッパで演奏活動をされている高橋さんはとても魅力的な女性でした。私がアムステルダムに到着した時は、大学の夏休みが終わり日本に戻られる直前だったので、2日ほど一緒に過ごす間に、部屋の使い方からアムステルダムで暮らす上で注意することなどを教えてくれました。到着した日の夜、眠る直前に、これまで味わったことのない幸福感が私に訪れました。この素晴らしい100日間をいただけたのは、長年にわたる多くの人たちの支援があったからにほかならず、大きな感謝の気持ちが私を包んだこの夜のことを、一生忘れないと思います。

 また、出発前にオランダ行きのことを、友人で箏奏者の竹沢悦子さんに話したところ、「同じ流派の箏奏者の女性がオランダに住んでいるから連絡を取ってみたら」と紹介してくれたのが後藤真起子さんでした。オランダに到着して4、5日後に彼女を訪ねました。アムステルダムから特急列車で1時間半ほどの地方都市にオランダ人の夫と住んでいました。初対面の真起子さんはとてもフランクで、ご主人もすごく親切な人でした。真起子さんは、ヨーロッパ各地で現代音楽のさまざまな演奏家とコラボレーションして活躍されており、ドイツのデュッセルドルフで箏を教える教室も開いていました。

 初めてのオランダ生活は、日常の小さなことも分からないことばかりです。カフェでの注文の仕方から電車の時刻表の見方など、着いた直後に戸惑っていたあれこれを、一緒に行動しながら真起子さんに教えてもらいました。おかげで、アムステルダムに戻ってからオランダ在住のアーティストとの交流もスムーズになり、貴重な100日間の滞在を順調にスタートできたのでした。

 聞き書き・松井明子


2023年11月4日号掲載

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