「千曲川源流」「木曽」の2編 楽曲化決まり作詞を担当
2015年12月に出版された絵本「森のくまさん」は、公益財団法人「長野県緑の基金」製作の「木が伝えてくれる物語」の6作目で、長野県の民話を基にした5作目までとは切り口を変えたいということで、私に声がかかりました。
千曲川の源流にいるクマが子どもたちと一緒に森を探検し、森のことを教えていくというストーリーです。クマは子どもたちと千曲川の源流へ行ったり、夏は子どもたちがカブトムシの背中に乗って虫相撲をして遊んだり。秋にはクマがカエデやシナノキの種に乗って空を飛び、冬は雪の下で冬眠します。私らしいファンタジーを描きました。
「クマに子どもたちを案内させたら面白いのでは」と提案しました。「イルカのトリトン」はイルカによる案内でしたが、今回は森や山がテーマなのでクマが案内するという構想です。
県緑の基金の常務と編集者、そして私の3人で取材をしました。車で移動し私が気になった景色があれば車を止めて写真を撮りました。千曲川の源流などは駐車場から3時間ほど歩くため、源流でお弁当を食べて戻ってきました。
クマが冬眠するシーンでは、大きな木に「春まで木の下のあなでねます」という張り紙を描きました。私が考えたファンタジーですが、展覧会では「人間のようなクマだ」と人気でした。
17年12月には森のくまさんシリーズ2作目の「森のくまさん 木曽物語」が出版されました。絵本の舞台となる場所は、県緑の基金が、あらかじめ木曽川と決めてありました。上松町で生まれ、大桑村や木曽町で暮らしたこともある私にとって木曽地域は大変思い入れのある場所です。
大桑村のお寺にある「タラヨウ」の木からイメージしたシーンが印象的です。タラヨウの葉は小枝などで傷をつけると変色してボールペンで字を書いたようになります。「葉書」の語源になったという説もあるくらいです。絵本の中で最後にクマが冬眠しますが、クマが秋にタラヨウの葉っぱに書いたはがきを冬に子どもたちが見つけるという設定にしました。はがきには「春にまたあおうね」と書いてあり、クマから子どもたちへのお別れの言葉で締めくくりました。
同じ頃、「森のくまさん」の楽曲化とCD化が決まりました。「おぶせ藤岡牧夫美術館」で毎年クリスマスコンサートを開催していた3人組「トリコローレ」でフルートを担当している早川育さんが作曲、私が作詞をしました。フルートで演奏したメロディーのデモテープを基に私が詞を付けました。1番は「山の緑」、2番は「川辺」をテーマにして意外にすんなり書けました。絵本の物語や楽曲が先にあったので良かったのですが、それがなければ作詞はできないかもしれません。
CD化されてうれしいこともありました。美術館に中野市の小学生が遊びに来てくれた時のこと。先生が気に入って子どもたちに歌を教え、子どもたちが美術館の中庭で口ずさんでいました。SBCラジオの番組に出演した時、パーソナリティーの坂橋克明さんから「作詞家という肩書きが増えましたね」と言われました。少し恥ずかしく感じましたが、イラストや絵本を描いているだけでは味わえない不思議な気持ちになりました。
(聞き書き・広石健悟)
2024年12月7日号掲載