2012年小布施町にオープン 来館者の声に励まされる
2012年3月、私の名前を冠した「おぶせ藤岡牧夫美術館」が小布施町にオープンしました。高山村との境に近い雁田山の麓の、周囲を緑に囲まれた所です。
絵本「ささ舟カヌー千曲川スケッチ」の展覧会を中野市で開いた際に、小布施に美術館を所有する須坂市の人から話を頂きました。当時、その美術館に展示中の作品を持ち主に返してからオープンしたいという話でした。ただ「オープンの時期は約束できない」と言われ、私としては「本当に私の名前のついた美術館をオープンできるのか」と半信半疑でした。
そんな私の心配は杞憂(きゆう)に終わり、美術館はオープンしました。オープンセレモニーには、野田知佑さんをはじめ、小布施町長や須坂市長など、多くの人に出席していただき、報道機関の取材をいくつも受けました。
学生時代の友人知人、野田さんのカヌーツアーの仲間も来てくれて非常にうれしかったです。来客や報道機関の対応で忙しかったですが、夜にはカヌー仲間と親睦会を開きました。
多くの人に来ていただきました。中には私のイラストを見て「懐かしい気持ちになった」「落ち込んでいた気持ちがパッと晴れた」と言ってくださったお客さんもおり、そうした言葉を聞くたびに私も美術館ができて良かったと思いました。
直接でなくてもアンケートに温かいメッセージを書いてくれたお客さんの言葉もとても励みになりました。もちろん、厳しいご指摘をもらうこともありました。例えば「風景の中に子どもはいないほうがいいよ」とか。ただ、イラストというものは見る人の好みに左右される側面もあります。あくまでも「その人には合わなかった」と考え、必要以上に気にすることはありませんでした。
私がイラストを描くとき、もう一人の批判的な私が、絵を描いている私にいつも意見してくるのです。「もうちょっとこうした方がいいよ」とか。もちろん、良い作品を作るうえでそういった批判的な目は必要です。しかし、いざ美術館にイラストを飾ると、その時だけは批判的な自分がいなくなったのです。
その時初めて「私は意外にいい絵を描いているのだな」と思うことができました。こういった意味でも、私にとって美術館は特別な場所だったのです。また、美術館内のショップでは、私のイラストをあしらったカードやマグカップも販売しました。絵本とはまた違ったうれしさがありました。
開館して数年たった頃、私の母校である城山小学校の4年生が遠足で美術館を訪れました。「日本のあかり美術館」など、小布施町内の見学コースに、藤岡牧夫美術館も入れてもらったわけです。子どもたちは美術館の庭でお弁当を食べたり、先生が美術館にあったピアノを弾いてみんなで校歌を歌ったりしていました。校歌を歌えない私はただただ「懐かしいな」と思うばかりでした。美術館の中には、かつて結婚式場として使っていた広い部屋もありました。そこでは、「トリコローレ」というピアノ、フルート、ソプラノ(声楽)の3人組が毎年クリスマスコンサートを開きました。
多くの人に親しまれた美術館でしたが、2021年3月、惜しまれながら閉館しました。
(聞き書き・広石健悟)
2024年11月30日号掲載