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89歳退役軍人が見た 人生最後の景色とは
イギリスで「サー」の称号を伴うナイト爵位を持ち、2度のオスカー受賞した名優マイケル・ケインが俳優人生最後に贈る感動作—。「2度目のはなればなれ」は、89歳の退役軍人が、ノルマンディー上陸作戦70周年記念式典に出席するため、老人ホームを抜け出した実話を基にした映画だ。
妻のレネ(グレンダ・ジャクソン)と老人ホームで余生を過ごすバーナード(マイケル・ケイン)がある朝、突然姿を消す。周囲が大騒ぎするなか、バーナードが目指しているのがフランスのノルマンディーだと判明。警察がネットで行方不明を伝えると世界的な話題になる。バーナードはなぜ最愛の妻と離れ離れになる覚悟をしたのか。彼が目にした人生最後の景色とは…。
1944年6月6日。連合国軍は、ナチス・ドイツ占領下のフランス・ノルマンディー上陸作戦を実行する。史上最大の作戦とも評され、何度も映画化されている。
ケインはすでに引退表明し、初めは出演のオファーを断ったそうだ。彼を再びカメラの前に立たせたのは、主人公が自分と同じ89歳であり、戦争と人生の機微が描きこまれた脚本の見事さだった。
ケインが演じるのは浜辺に戦車を運ぶ操作任務の19歳の技師。目の前で多くの兵士たちが死んでゆく姿を目撃した残酷な経験は生涯のトラウマとなっていた。70年の時を経て死の現実を捉え、再び過去と向き合う決意が生まれた。
戦争のさなかに出会い結ばれた妻レネとのまぶしい愛の日々がフラッシュバックのように差し込まれる。レネを演じたグレンダ・ジャクソンは、ケインと同じく2度のオスカーを受賞した演技派。「愛と哀しみのエリザベス」(1975年)以来50年ぶりの共演で、名優同士ならではのいぶし銀の味わいがたまらない。残念ながらジャクソンは昨年6月に87歳で他界している。
オリバー・パーカー監督は戦争の愚かさと語り継ぐことの意義を問い掛ける。人生を全うすることとは何か。そんな深い感慨をにじませた人生という旅のロードムービーであり、心温まる夫婦愛の物語だ。
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
2024年12月14日号掲載