19 OKAMASAKO展
- 5月31日
- 読了時間: 3分
「衣」を「アート」として表現 未来を問いかける展示も

フランス・テキスタイル美術館で5カ月間にわたる展覧を終えた2002年4月。まさに同じ月に、私にとって初の日本の美術館での個展となる「岡正子展~21世紀シルクの革命」が駒ケ根高原美術館(2017年に閉館)で始まりました。
新聞や雑誌などのメディアで私の活動を気にかけてくださった松井君子館長から「開館10周年記念の特別展として岡さんの展覧会を企画したい」とオファーをいただいたのがきっかけでした。オリジナルシルクを中心に、トウモロコシ由来のポリ乳酸繊維で制作した新作35点を展示。この時は、衣服のほかに、布が作られるプロセスや、原料なども展示し、会期中にはフロアショーも開催しました。
そこでは春夏のコレクション60点を発表し、モデルが次々とランウエーを歩いて衣装を披露。美術館に集まった350人もの観客から、大きな拍手をいただき、「これからも体や心に寄り添う服を追求したい」という思いを強くした経験となりました。
約1カ月間の駒ケ根での展覧会を終えてしばらくたってからのこと。この年、県信濃美術館館長に就かれた松本猛さんから展覧会開催のご依頼をいただきました。松本館長は「本来人々の暮らしの中にあって、心の喜びにつながるものだった〝美術〟を、遠い存在ではなく、生活の基本である衣食住をテーマに改めて提案していきたい」とおっしゃり、「その意味でファッションは一番身近な美術。その中にある芸術性をちゃんと提起してみたい」と、熱くお気持ちを伝えてくれました。
「まさかあの美術館全館を私の作品で埋める!?」。それは驚きとともに私にとって大きなチャレンジとなりました。人の体を包む最も身近な存在「衣」に深く向き合い、「アート」として表現していく。そして「衣」の持つ可能性を私はどのように伝えていきたいのか…。そんなことを考え続け1年がかりで作品制作に臨みました。想像以上に広い、いくつもの展示室を埋めるには、セッティングだけでも1週間かかるほどでしたが、各部屋にテーマを設け、未来の「あなたは何につつまれたい?」と問いかけるかたちで糸、布、服、オブジェなどを徹底して作り上げました。
かくして2003年9月14日、「OKAMASAKO FASHION展~あなたは何につつまれたい?」が開幕しました。
絹や麻、ポリ乳酸繊維など自然環境に優しい素材を用いて新たに制作した作品90点と実際に作品に用いた新繊維なども紹介。一つ一つのコーナーにはテーマを設け、糸の美しさや触感を五感で感じてもらう体験コーナーや、環境を意識し、土に数カ月間埋めた各繊維が土の中でどのように分解していくかの実験展示。また、同館が所蔵する東山魁夷さんと池田満寿夫さんの作品に合わせて制作したオマージュ作品を、光栄にも横並びで共演するような試みも。
そして、かつて養蚕が盛んだった信州から再び絹の文化を見直してもらう絹をテーマとしたコーナーも設けるなど、身近でありながら「衣」から未来を問いかける展示にこだわりました。
そしてご縁がつながり、展覧会に先駆け出演させていただいた「徹子の部屋」では、黒柳徹子さんご本人にとうもろこし由来の衣装を着用してもらい、多くの反響がありました。36日間にわたって開催されたOKAMASAKO展では、県内外からの多くの来館者にこれからのエコロジーファッションの可能性や重要性を発信でき、デザイナーとしてこの上ない幸せな経験をさせていただいたことに今も感謝しています。
(聞き書き・中村英美)
2025年5月31日号掲載